レビュー:ガールズバンドクライって何なのさ

引用:https://girls-band-cry.com/tv/
©東映アニメーション

2024年に突如としてオリジナルアニメであるガールズバンドクライが飛び込んできた衝撃は(一部のアニメ好きにとって)大きかっただろう。
近い時期に「ぼっち・ざ・ろっく!」、「BanG Dream! It’s MyGO!!!!!」など人気のバンドアニメがあり、当時のネットではバンドアニメの当たり作品が続いている……という話が聞こえてきたかもしれない。
実際はアニメ放映以前から各種配信サイトでは楽曲の発表やキャラクターの自己紹介動画などがアップされていたものの、明らかにアニメが放送された後で一気に知名度を上げた印象である。
彗星の如くいきなり何も知らないアニメファン達の眼前に飛び込んできたこの作品は、ただの1クールで消えるようなヤワなものではなかった。
辺り一面をやりたい放題焼き尽くしたうえに、大きく傷跡を残していったのだ。
実際のバンド演奏でも活動し続けるプロジェクトなので、このページがアニメ版をどう楽しんでいたかの一助なれば幸いである。

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目次

概要

高校を2年で中退した井芹仁菜は、東京で予備校に通いながら大学へ進学するために単身上京した。
上京した彼女は大好きだった音楽グループのリーダーであり、現在は脱退してソロ活動をしていた河原木桃香と出会った。
桃香は仁菜の歌や考え方に惚れ込みバンドへ誘う。初めは断った仁菜だが、次第に音楽の魅力に取り憑かれてしまう。
2人はクセの強いメンバーを増やしながらもガールズバンドであるトゲナシトゲアリを結成し、それぞれの目的を達成するために音楽活動を行っていく。

上京した暴走少女

本作主人公の井芹仁菜を表す言葉は色々あるものの、そのどれも押し並べて酷い言われようだ。
一部挙げると、川崎の狂犬や正論モンスターであろうか。
劇中の仁菜はまあまあ無遠慮に相手が言いにくいこと、逸らしておこうとするものを引っ張り出して無理やり会話のテーブルに載せ直す所業が多い。
いわゆる空気を読んでを蹴り飛ばして、私が聞きたいんだ言いたいんだから逃げるなとばかりに詰め寄っていくせいで騒動を頻繁に引き起こす。それも場所をわきまえずに。
見た目が可愛らしいからと近寄ってみたら最大火力を延々と真正面から叩き込み続けるストロングスタイルは他人からみれば疎ましく思えてしまう。彼女の交友関係はだいぶ歪である。

ただし、初めから何でもかんでも噛みつきにいくクレイジーガールではなかったことが中盤の仁菜の実家エピソードで明かされている。
仁菜は頭が悪くて勉強ができない訳では無い。序盤の予備校に通っているときもそうだが、一定ラインの学力は有しているのだ。勉強に行き詰まったせいで進学も就職もできなくなって、だから適当な理由つけて東京行って遊び呆けて生きるなんて将来を選んだのではない。
とはいえ、何かしらの目標をもって動いてはいない。第1話において桃香からの質問に対し、夢があって来たわけじゃない。居場所がなくなってしまったからと返した。
あくまで桃香と駅前で出会ったしまったから運命が(大人たちにとって)エキセントリックな方向へ舵切りしたのだ。出会わなければ、きっと彼女はトラブルを起こしながらもそれなりに無難な人生だっただろう。
熊本出身の仁菜は家庭の教育方針によって世間知らずな少女になっている。牛丼を食べたこともないような人生を送っていた。

人見知りで引っ込み思案、内側にストレスをためやすい仁菜の為の演出として、赤黒いトゲのようなものを体から放出することがある。これは強いストレスを感じれば感じるほど大きく、多くなっていく。主に家族、特に後述する友人だったヒナには大量のトゲがまき散らされるほど。
ただしこれは演出のためで実際はトゲが他人に認知されることはない。
そしてこのトゲの演出は仁菜のみのものであって他のメンバーにはないために、他のメンバーがストレスを感じているかどうか視覚的に掴みづらくしている。これは間違いなく狙った副次的効果である。
視聴者は仁菜に感情移入して物語を追うことに専念していく。感情の演出は主に仁菜へ押し当てて、伏線などをトゲナシトゲアリ(以下トゲトゲ)のバンドメンバー(たまにサブキャラ)などに割り振ってバランスを取っている印象を受けた。
仁菜の頭は悪くないものの、性格や価値観の影響で他人の心情や考えを理解・共感しにくい点から、トゲトゲメンバーに寄り添って癒やすことができない。
それでも全く理解できないわけではないので、かえって間の悪さを露呈することもあった。
インディーズ時代のダイヤモンドダストのファンで、なおかつ空の箱を特に気に入っており、仁菜は自身のテーマ曲としている(上京の後押しにもなったと第1話で発言している)。

空の箱

アニメのいくつものシーンで取り上げられた空の箱(からのはこ)は、かつて河原木桃香が結成し、所属していたダイヤモンドダストの頃に発表された楽曲である。
この曲はガールズバンドクライにおいて最も重要な曲であり、仁菜をはじめ多くの人達に影響を与えたものである。劇中、仁菜が口ずさんだり、どこかで曲が流されたりと頻繁に登場しており、全編を通して空の箱が物語を生み出していったのだ。物悲しいシーンだと雑踏、僕らの街のピアノバージョンが流れている。
ライバルチームである現ダイヤモンドダストも空の箱を歌っているのだが、これはインディーズ時代の曲をアレンジしてETERNAL FLAME 〜空の箱〜として演奏している。
曲調以外だと歌詞に変更がなされている。桃香と仁菜が歌う方を原曲とするならば、アレンジ版はサビの繰り返しが1つ足されて、冒頭とBメロが削除されている。これによって、ほとんど同じ曲であるが原曲のほうがやや重たい印象を受け取った(他人と比較して自分は……といったマイナスな気持ちを覚える、そのようなイメージ)。
大事な場面で空の箱が流れてくる度、そのシーンで登場する人物に変化が訪れていく。
それは出会い、決意、変化、理解というようにこれと定まってはいない。しかし全ての人・物にとって完全なマイナスのシーンで空の箱はやってこないのだ。あくまでプラスに繋がっていくとき登場する点は、意識しなくとも自然に抑えられるポイントだろう。

空の箱だけでは生きていけない


第1話で桃香は仁菜に「権利を人にあげた」と言った。これは現ダイダスと関わっている音楽出版社あるいはレコード会社に売却(移譲)したのだろうか。仁菜は桃香達が作ったのだから他人にあげられないと言い返しているが、実際に売り込みをするのは出版社やレコード会社などで、アーティストは権利移譲契約や信託契約をして使用料をもらっているので適切な返しではないような気がする。
桃香は仁菜と出会った日の夜の路上ライブを最後として旭川に帰るつもりだった。このときの会話内容からして、ライブや音楽の収入だけでは厳しく、売れないミュージシャンだった桃香はバイトばかりの生活を送っていることが伺える(実際にバイトをしているシーンも後に描かれている)。
仁菜が好きだと言った空の箱はインディーズ時代の産物であり、世間が持て囃している空の箱はアイドルバンドになった後のアレンジ版だ。いくら再生数があったとしても、環境があまりに違いすぎる上に、1曲だけで今後の生活全てを賄えるほど凄まじいヒットでもない。
仮に賄えるだけのヒットを空の箱(原曲)が叩き出していたのならば、桃香はダイダスを脱退することも無かっただろう。何故ならその曲が作られた当時、アイドル化をしていない自分たちの音楽をひたすらにやっていた時期のダイダスだからだ。

しかし、現実はそうならなかった。メジャーデビューしても全く売れないバンドだったダイダスは方向転換を強いられる。
仁菜が持っていた中止となったダイダスのチケットの場所は阿蘇にある架空のアリーナだった。
どこをモチーフにしたかは不明である。例えば大きなところでひとつ挙げれば熊本県野外劇場アスペクタという野外の場所があり、ここは阿蘇ロックフェスティバルなどが開催されている。
気になるのはチケットの安さだ。現代日本を舞台にしている本作でチケットの値段が3000円なのは明らかに安すぎる。
例に挙げたアスペクタで行われた2023年開催の阿蘇ロックフェスティバルの料金は、1日入場券で9000円、2日間通し券で17000円である。学割の記載はないので特別価格かは定かでないものの、軽くネット検索をしてみればインディーズのチケット価格は2000~3000円程度。
第5話で登場した川崎セルビアンナイトのチケット料金は2500~6000円の幅があった。劇中で貼りっぱなしだった旧ダイダスのチケット料金は2500円+ドリンク代500円。
さらに撮影時の背格好からして、これはアイドルバンドに転向する前のもの。川崎なのにin TOKYOの文字を記載するところがセコさをにじませる。
つまり契約しているが旧ダイダスのライブはインディーズの扱いのままであり、中止となった理由は桃香の脱退によるものだろうか(もしくは別の理由)。
これでどうやって音楽活動ができるだろう。別に会社は慈善事業でない以上、利益追求が至上命題だから方向転換を要求することは至極真っ当な行為だ。
ちなみに同じ第5話で同じ会社によって開かれた現ダイダスのチケットは6000円とメジャーな価格だった。
熊本の中止されたチケットの倍額に跳ねており、開催場所・知名度・価格の3点全てにおいて転換後の成功を見事に表現している。
仁菜にとっては度し難い感情に飲み込まれた光景だったが、残された旧ダイダスメンバーと、新しくオーディションを勝ち抜いてセンターボーカルの座を射止めたヒナにとっては素晴らしいものだったに違いない。

……と、ここまでなら新生ダイダスはスターダムの座を駆け上る最中の勢いあるバンドと見なされるだけだが、実際は桃香脱退に関して大量の誹謗中傷が届いている。
さらに、最終話で仁菜と会ったときに変装すらしないヒナの「別に。そこまで有名じゃないよ」と発言し、実際周りの一般人から有名人がいるといった反応がないあたり、音楽が好きなら知っているグループのひとつ程度の認知度であることが分かる。

2人の始まりと、導いたものとして

「結局、人は情報に流される。皆がいいって言ってるものは興味なくても見るし、誰も見向きもしないものは、自分も見ない。
ないって言える? 同じゲームの実況動画、5000と100万再生だったら、ニーナどっち開く?」

安和すばる

仁菜が自分の意志でヒナと会ったのは絶交以来のことである。そこでヒナから売れることの大切さなどを煽られて怒るも、その中に自分へ応援が混じっていることに気づいてしまう。
これまでの仁菜ならば完全に怒りの感情に飲まれてしまって、蓋の開いたコーヒーの中身をかけるなり、思い出のポップコーンを投げつけたりしただろう。しかし、川崎での新しい出会いや生活で一回り成長した仁菜は言外の意図を読み取れるほどになっていた。それでも煽られた事実そのものは怒っていたが。
最終話で空の箱は音楽の面では流れないが、最後のピースとして登場する。対バンで惨敗確定となり、現ダイダスが両日出演する助け舟を蹴飛ばした後のライブである。
メンバーのルパから自分語りの赦しを得た仁菜が演奏前に客の皆へ語りかけるシーン。2階(?)の関係者席にこっそり来ていたヒナに気付いた上で喋り続ける中、仁菜はやっと自分が大切にしていた空の箱を一体誰と受け止めていたかを思い出したのだ。

それは絶交してしまったヒナであり、2人で屋上で仲良くイヤホンをシェアして横になりながら聞いていたのだ。
気づいて見開き、おそらくヒナを見ているだろう仁菜と、優しげな表情を仁菜へ返すヒナ。
彼女たちの考えは異なる。
無難に、賢く、うまく立ち回ることも必要と考えるヒナと自分が信じたものは死んでも間違っていないと意地を張る仁菜。
このラストシーンの後、2人の関係性が変わったかは実際に描写されていない。物語はトゲトゲのライブといつものエンディングで終了してしまうからだ。
そして原作の存在しないオリジナルアニメなので、視聴者側はもはや想像の域でしか語れなくなっている。
それでも2人の仲は間違いなく、上京を決意した日から良好なものへ変化しているのは間違いない。
昔のような放課後にヒルバレーのポップコーンをテイクアウトして食べていたような関係というより、自分の生き方(やり方)が正しいから私はこれで突き進んでやるよと言い合うようなライバル関係になっているはず。

「あいつらがやったと? 言ったはずだよ、味方はできんって」
「私のしたこと、そんなに嫌だった?」
「あんさあ、仁菜と話しているときいつも感じとった。正義のトゲ出して、繊細振りかざして、皆を傷つけて。……なんか、自分が悪者に見えてくる」

井芹仁菜、ヒナ

高校生時代の仁菜は自分の中の正しさからいじめを許せず、止めようと突っ走ってしまった為に自身がいじめられてしまい、結果退学してしまった。
東京に来てからも自分が正しかった、間違っていなかったと証明すると言い張り続ける彼女は非常に危うい。まずもって味方になってくれる人以上に敵ばかりを作ってしまうし、友達ですら息苦しさを味わい続ける。だからヒナは考えの違いから袂を分かったのだ。
生きづらい性格・思考を持っている井芹仁菜だが、それでも意思を貫こうとする姿に惹かれ、歌に引き寄せられた桃香たちトゲトゲメンバー。最終回ですら間違っていない、悔しいと叫ぶ仁菜へ注がれる視線は「いつもの癇癪起こしたぞこいつ……」と言いたげなもの。
それもこれも全て空の箱から始まった物語である。幾人もの人生を捻じ曲げた桃香の責任(?)は重大なものかもしれないが、当の本人はあまり気にしていなさそうだから頭を抱える。
なお、現ダイダスとしても新しい曲を発表していけばいいところをわざわざ空の箱を引っ張り出してアレンジしたところにも思惑がある。
素直に考えれば、旧ダイダスの人気がある曲だから使いまわして味付けを変えて売れたら良しという商業の理由と、桃香との思い出が詰まった曲を蔑ろにしたくない心情的なところか。
空の箱は始まりであり、成長や苦難の中でも共にあったのだ。
やがて新曲がどんどん世に出てくる中で埋もれていく中で、ひときわ輝いていたことを彼女たちが懐かしむようになれたら、きっとより良いバンドが2組できているだろう。

ロックを求めた少女たち

トゲナシトゲアリは全員が音楽経験者ではない。
桃香だけプロ経験があり、ルパと智はアマチュアの中で注目株のひとつ。
元プロのミュージシャンでダイダスメンバーだった桃香、プロ志望かつネットで注目されていた謎の二人組beni-shougaとして人気のあった(劇中でレーベルから声掛けがあった)ルパ・智と比較すれば、仁菜とすばるはただの素人である。一応すばるは中学の部活のときに始めたとあったが、仁菜は全く経験なしからのスタートである。
しかし回を重ねるごとにどんどん成長していく。特に途中からボーカルの仁菜がギターを練習して最終回で披露できるほどになったのは、率直に大したものであると驚くべきところだ。
仁菜が桃香のファンで桃香に乗っかる形で始まったバンドを、傍で支えて良いバンドにしていきたい姿勢、意識の変化が十分伝わってくる。
技術面なら桃香とコンクールで受賞しまくり、金賞も授与されている智がぶっちぎっている。
次点でセンスが抜群のルパ、だいぶ離されて仁菜とすばる。
腕も方向がばらばらだったメンバーは、仁菜の情熱に突き動かされてプロへの道を走り出していった。

再び名無しのトゲトゲへ

一度は事務所入りを果たしてプロとしての生活をするものの、最終回で退所届をメンバー全員の合意のもとで提出することになった。実際に三浦さんが受理して会社がどうしたかは明示されていない。
エンディングの三浦さんはトゲトゲのペット一同を預かるコマが表示されているので円満だったと思いたい。
ただし、プロモーションに金をかけたバンドが速攻で辞めてしまった責任を三浦さんは間違いなく取らされているだろう。先述したが音楽会社はボランティアの集団ではない。営利企業である。
退所届を出す際、かけた金を補填する旨をトゲトゲ側から言われているが、はっきり言って空手形も良いところだ。動画サイトなどでたくさんのフォロワーを抱えて何らかの収入を得ている描写がない以上、彼女たちの生活は基本アルバイトで成り立っている(すばるだけ異なる)。
見通しの立たない返済計画を皿に乗せたところでどうやって天秤を傾けられるだろう。

再び戻ったであろうインディーズのトゲトゲが、エンディング映像でダイダスのツアーの告知を見て、自分たちもツアー(の真似事)をするつもりでドライブしている。
この時点での認知度、観客の入りは不明。プロダクションと金にまつわる何かが無かったので保留扱いにしてくれているのか、一旦誰かに建て替えてもらったか。何にしても、あまり良い状態と言いたくない。
一度得た権利や立場を捨てるのは心理的抵抗があるはずなのに、割とあっさり捨てたのは前にも捨てたことがある桃香を知っているからなのか。あるいは全てを失っても私達の心や意思は死んでいないから、リスタートするだけだろうと決意に満ちているか。後者のような理由だと清々しくて応援したくなる。
事務所の大方針に逆らえないダイダスと、根なし草のトゲトゲの対照的なイメージをここでも描いたのだ。
桃香は元のプロダクションとのダイダスの扱いに関し反発して脱退、ルパは自分がハーフ故のいわれなき不当な扱いを受け、智は母親の不倫現場を見てその後ピアノの賞状を燃やしている。
仁菜は家庭、学校(社会)との軋轢に悩み、言葉通りの意味かは定かでないものの自殺をほのめかしていた。
やたら子どもにとって重たい問題を列挙される中、一見したらすばるが最も自由人が如く軽やかに生きているよう思えてくるだろう。
しかし、すばるとて祖母の影響から生き方を制限されているし、周囲からの視線・期待が相当に鬱陶しく感じているのは明らかになっている。

すばるのトゲはどこに

役者の道から音楽の道へ変わってしまうのは全くありえない話でもない。そもそも生きていく内に夢や目標は大小様々な変化を連続的にしていくものだ。幼少期に掲げたものに殉じなくてはならない、そうではなくては価値や意味はないなどと言う輩は、(そして創作上の出来事に対しても指摘してしまうほどの繊細極まりない人も含めて)あまりにも生きづらい現実世界である。
第4話ですばると彼女の祖母である天童の決別になるかもしれない会話を、焚き付けた仁菜が妨害したのだって理由があるからだ。
正論で真っ向からの殴り合いをするのは仁菜だけ。面倒な仁菜をさらに面倒にしたのが智。
桃香は第9話で仁菜のあの言葉を受け取るまで、逃げの一手を常に用意しながらそれっぽく生きていただけ。
ルパはそもそも一切エピソードが開示されていない。時々挟まれる描写で推測するしかない。
すばるは無口でも致命的なコミュ障でもない。むしろ全体を見れば喋る方であり、トゲトゲが空中分解しないよう立ち回る重要なバランサーなのだ(気が利くなんて易しい言葉で分けられるのか)。
彼女がいなくては解散待ったなしになりかける場面もあったくらいに、すばるはバンドのことを考えている。
しかし、すばるは自他共に認める嘘つきキャラクターだ。額面通りに受け取るなと本人の口から語られている。
第11話でバンドのドラマーが言ったことを仁菜へ話すシーンでは、明るい劇伴で逸らされそうになっているものの、あそこが楽しい場面ではないことがわかってくると、すばるが持つ重たさ(面倒くささ)が伝わってくる。
フェス前夜に天童へ役者よりやりたいことが見つかったとメールで送り、夕暮れまでバンド見てくると適当な嘘をついてまで単独行動したのは、すばるが呼びつけたであろう天童との対話が主目的だった。ここまでは初見ですぐ見抜けるくらいの雑な嘘の出し方だった。

ただ、この会話であったドラマーのくだりは無視していいポイントではない。
背中を見て頑張っているとは、つまり自分が支えてやろう、ケツを蹴り上げてやると笑顔で言った第4話とは異なり、蚊帳の外へ追いやられたような無念さを滲ませているように思える。
テントの隙間から漏れる光もテーブルの真中を境に仁菜側が開かれているので、今光を浴びている(輝いた未来、成長がある)仁菜の方がすばるより上にいるという見方もできる。
指切りのように小指を触れさせる2人に光の向こう側(プロ、実力者の立場)から桃香が呼びかけるのも、やがて仁菜とすばるが日の目を見るということを示しているだろう。
実際、このフェスをきっかけにちらほらいたトゲトゲファンがより増えていき、事務所入りを果たすのだからそう間違った解釈ではないと思う。
どちらも有名になる様を示したものとするならば、光が仁菜の方に多く寄っていたのは何故か。
本格的な練習を始めたのは新川崎(仮)を組んだときと仮定すれば同時期。アクターズスクールやバイトを考慮しても全体練習にはどちらも参加し続けているはずなので、大きく練習時間に差はないだろう。
努力した量が同じなら、後は成長率、つまり才能の差が大きく影響する。
めきめきと実力をつけていった仁菜への焦り、嫉妬が見え隠れしているのだ。
アクターズスクールを卒業しても高卒の資格はもらえないという発言から、社会人として学歴を見ると実は高校中退した仁菜とすばるはどちらも最終学歴が中卒となる。高卒資格をどちらも劇中で入手していない以上、2人は高卒とは書けないのだ。1
学歴でも同じようなものとした2人だが、中学の頃から楽器を触る機会があったすばるに対して、仁菜の成長スピードは圧倒的なのだ。
ガルクラの時間経過は、第1話から最終話まで通しで考えても1年すら経っていない。
これは予備校の入学時期が4月が開始の時期としてぴったりであること、高校に通っていればという発言と季節感から春先なのは予想しやすい。ダイダスと行う対バンの仮ペーパーにバレンタインの文字があることから、最終話が2月と楽に推理できる。
かけた時間が違うのにきっちりボーカルとして活躍している様を後ろから見ていれば、嫉妬するのは当然だろう。あっという間に引き離されていく実力差(そして仁菜はすばるのことを実力不足などと煽らない)が焦りや劣等感を刺激する。

すっきりしやがっての言葉が指すのは、第10話で仁菜が熊本の実家に帰って家族と和解したエピソードである。父親との確執が一旦終わったので精神的な安定を強固にした仁菜と、未だ祖母の天童との対話で足踏みしているすばるの溝が予想よりも深いのかもしれない。
ただし、別にすばるは仁菜を嫌っていないし、トゲトゲの活動にものめり込んでいるのでやめたいわけでもない。仮に失敗しても続けていこうと本人の口から発せられているところからも判断できる。
トゲトゲのステージを後方から天童が見てくれていたので、ひとまず天童も納得しているだろう。
一度は役者の仕事を好きと言ったすばるがバンドに専念すると伝えたときに、天童がどう思ったかはわからない。すばるが役者を目指すと言ったとき、作り笑いじゃない本心の笑顔が見られたとあったから、本当は役者の道を選んでほしいと思っているのは想像に難くない。
すばると天童はどちらも嘘つきの属性を与えられたキャラクターであり、言葉や行動をまっすぐに受け取ろうとすればするほど妙な矛盾や違和感が起きやすい。どこまでが本心かすら定かではない。
したがって、この言葉はフェイク、あの行動は本心と分けようと試みても、それが正しい分別かは誰にもわからないのだ。公式からの情報が明かされない限り、すばるの情報の精査は困難である。
単純にエピソードが少なすぎる智、そもそも単体エピソードが存在しないルパに比べて、登場回数やすばるのバランサーとしての活躍を頻繁に描写されているのがかえって謎を呼んでいる。
わかりやすさのツートップが仁菜と桃香なので、あれを基準にすばる達を見ようとすれば見当違いになりがちだ。
ドラムという最も後方から輝く仁菜たちを見つめるすばるは、今後何を思うのか。

最後に

様々な都合から2期の制作は予定されていないという旨を当時構成をしていた花田十輝がSNS上で発言した以上、ガルクラは続編が想定されておらず1クールのみで完結となっている。
オリジナルアニメだとそもそも予算を引っ張れない(原作がこれほど人気だから作っても回収できる)理由があるため、これは商業的に考えれば合理的な判断だ。
ファンがいくら続編を見たいと望んだところで、映像を収録した円盤や配信サービスでの契約料、グッズの売上がある程度目に見える形で出せなければスポンサーがつくはずもない。
また続編を作ったとしても、その作品の出来が思わしくなければ手のひらを返して叩いてくるのがネット社会(特にSNS)の恐ろしい一面なのだ。叩くだけ叩いて売上に貢献しないファンばかりだと制作に関わった企業が最終的に赤を背負う羽目になる。
だからこそ、続編を作らない判断を下した制作陣にはいちアニメ好きとして理解を示したい。

ただし、ガールズバンドクライはリアルでの音楽活動も最初から視野に入れてプロジェクトが始まっていることを忘れてはならない。
今年2025年の9月23日に武道館でのワンマンライブが開催される。
仁菜たちはオープニング映像だと武道館にて演奏しているが、劇中だと武道館を目指す道の途中で、まだ外から見るしかできなかった。
それが一足先に現実で武道館のライブが行われるのだから、ある意味アニメからリアルに飛び出して夢の続きを見せてくれていると考えても良いだろう。
体調不良によって智とすばるの中の人は出演せず、残りの3名でこの頃ずっとライブをしている印象がかなり強い。
いつか完全復帰して、さらなる熱いロックを披露できるようになることを祈っている。

  1. そもそもアクターズスクールは養成所の総称であり、高等教育機関ではない。もっと言えば、専門学校の入学資格は高校卒業資格、またはそれに準ずる学力と認められることが条件である。ただしトゲトゲメンバーの最終学歴は不明のルパを除いて全員中卒である。 ↩︎

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