レビュー:赤髪の白雪姫を見て、圧倒的王道の良さを楽しもう

引用:http://clarines-kingdom.com/
©あきづき空太・白泉社 /「赤髪の白雪姫」製作委員会
目次

概要

とある国、そこに住む少女の髪はリンゴのように真っ赤な色をしていた。
珍しい髪色をする白雪は、国の第一王子のラジ王子の愛妾にされかけたことで嫌気がさして、生まれ育った国を出ていく。
隣国のクラリネス王国の森でゼンと名乗った少年と出会った白雪。
ラジ王子が差し向けてきた追手の魔手から助けてくれたゼンは、何とクラリネス王国の第二王子だったのだ。
白雪はクラリネス王国に居を構え、城に仕える宮廷薬剤師となるべく働きながら、ゼンと時を重ねていく。

素朴で美しい物語

この物語には一切の魔法など存在しない。
少女漫画、ファンタジーとカテゴリー分けされているが、魔法やドラゴンなど登場しないのだ。
タイトルに白雪姫とあるが、別にグリム童話に記されたあの「白雪姫」とも関係ない。
主人公の名前が白雪で、後に王子のゼンのパートナーに選ばれる(=王族の仲間入りを果たす)から斯様なものとなったのだろう。
白雪の容姿は物語を見て可愛らしさこそあれど、絶世の美女ではない。
どこぞの現代日本から転生したわけでも、オンラインサービスの何かのアバターでもない。
どこかにある世界に住んでいる、ちょっと髪色が珍しいだけの女の子だ。
薬に関する知識は幼少から学び続けているから腕も立つし、若くして宮廷付き薬剤師として召し抱えられる。

彼女の周りには様々な身分や境遇の人がいて、男性キャラクターが多めになっているのは少女漫画として自然な配分なのだ。
それでもゼンの側近のひとりである木々(キキ)や 薬室長のガラクといった女性キャラクターも少数ながら頻出するので、そこまで偏りを感じにくい。
むしろ王族の警護なら男性が担当するのは至極当然のように思われる。ゼンが男性なので尚更だ。
性別問わずキャラクターはクセが少なく、人当たりが良い。
中には白雪を快く思わないものから危害を加えられることもある。
そうした人物の中からも白雪の内面を知ることで、彼女の味方として身の置き方を変えてくれる人もいるのだ。

白雪の目標がゼンの隣にいたいというもの。
彼女とゼンの間には確かな恋心が存在するので恋愛がそうさせた点もあるが、白雪のは彼の王城暮らしの息苦しさを同情しているところから始まっている。
側近くらいしか胸の内を吐露できないゼンの数少ない味方のひとりになろうと決心したのが、白雪が城で働くことを決めたポイントだろう。
出会いこそやや乱暴だったふたりが、幾つもの困難をこえていくにつれて惹かれ合う。
横道一切無しの王道まっしぐらのストーリー展開の素晴らしさがここにはある。
原作漫画の時点で長期連載。
時代の流れに沿って多少作り方の変更はあったらしいが、この丁寧かつ素朴な美しさを楽しめるなど早々ないのではないかと思えてしまうほど。
劇的な要素などいらない。すぐに性的接触の類をする昨今の作風など本来はぐれ道もいいところだ。
じっくりと足音を揃えて歩み寄るじれったさ。
両者の心の交流を側近のミツヒデたちのように遠く(あるいは近く)から見守ることが、恋愛少女漫画のセオリーだったではなかろうか。

活動的な白雪

白雪は育ての親(祖父母)からの教えによって、他人に頼らず自分に出来ることは何度でも頑張れると学んでいる。
幼少期の体験に基づく経験則が、彼女を腕の良い薬師として成長させるきっかけになっている。
また、白雪やゼン、もしくは国に仕える兵士たちなど誰かが困っているときには積極的に関わる。
解決させるためなら自分の体調をおしてまで動こうとするので、ゼンたちには心配されることが多い。
時には体調を崩してしまい、強制的に休まされることも。
ただでは転ばない、待っているだけのお嬢さんであり続けない。
芯があり、活動的に日々を過ごしている白雪は、本編で罵倒や泣き言をいうことがほとんど無い。
言っていたとしても記憶が残らないほど他者を攻撃しないのだ。
脳内が花畑状態で、この世全ての何もかもが自分の助けになっているという煮えきった精神ではなく、あくまで彼女の育ちの良さ、内面における成熟ぶりを示している。

例示

例として、第5話「この道は予感の結晶」を挙げてみる。
この話は定期連絡の途絶えた砦の内情を確認するために、ゼンがミツヒデと木々をお供にラクスドの町へ赴くところから始まる。
白雪は麓の町で薬剤師見習いの仕事があったので途中で別れ、3人(とオビはどこかからこっそり)は砦へ到着した。そこには誰もいないような静寂さがある。
ようやく出てきた兵士は見るも汚らしい格好で、病に臥せっている同僚の世話をしていた。
ここでこの兵士は、砦の皆は魔物にやられたと表現している。
原因不明の病で倒れてしまった人たちを魔物にやられたと表現できるなら、空想上の何かとして魔物は人々に認知されている。
しかし、これは現実における我々が頭の中で地球の何処かにはドラゴンが棲んでいると思うことと同一だ。
空想の産物にすぎない。
得体のしれないものを魔物や神、呪いといった超常的な力になぞらえるのはやや古代的な考え方である。
かつては現実においても正体不明の病で人間が倒れ、死んだことを様々な言葉で表していた。
しかし時代が進むにつれてそうしたアンノウンが白日のもとに晒され暴かれていくと、それらの神秘性は失われていったのだ。
こうしたところからも、人々がどの程度の信仰心や価値観を持っているかが垣間見えてくる。

さて、ゼンたちは中を調べてみると武器庫が荒らされていた。
盗賊に混乱の隙をつかれて盗まれたとみて、オビは嬉々として盗賊退治を進言したが却下される。
木々の助言を受けてゼンはミツヒデを使って白雪を砦へ呼び寄せる。
その間、外壁から見下ろすオビと木々は、ミツヒデがゼンに逆らわないことを話していた。
オビの視点では、ミツヒデはゼンの意見を曲げない甘ったれに見えている。
木々はわざと返答を濁し、ミツヒデの戻りを見つけることで話をそらした。
夕暮れ、白雪と共に残るとわがままを言うゼンをミツヒデは叱った。
日没までの約束を反故にしようとしたからだ。
ミツヒデは唯々諾々と従う男ではない。言うべきところはきっちりと言ってきかせるタイプだった。
だから木々は普段の彼らの関係を突っ込まないし、自分がいえばよいとしている。
木々曰く、ゼンがまともに聞き入れる言葉はミツヒデのものくらいだと。
オビは側近たちの接し方の違いに納得した。

夜になり、白雪は広間の兵士たちの体調を見て回っている。
火の勢いが落ちていたからか、薪を暖炉にくべる。
ここでさっさと放り込まず、わざと1カット分の尺を使って薪の束を見せて放り込んでいる。
視聴者へ向けて、薪に何かあるのではないかと思わせる誘導である。実際にこれは合っている。
ただ遠景などで入れただけだと印象に薄い。
しかし荒らされた武器庫、寒い地域、冷えた夜の時刻、薪の放り込みと材料を重ねると、聡明な人(あるいはパターン慣れした人)ならば何が原因か当たりをつけられる。
薪を放り込み、傍に置いたベンチへ白雪が腰掛けた。
キャラクターを座らせる前に、ざっと暖炉を中央に兵士たちの位置を見せておよその構図を示している。
当然寒いから白雪は暖炉の近くに座る。ある意味生き残りの見習い兵士シュカが遠くからやってきた。
これは前のシーンでシュカがいた、暖炉から最も遠いであろう扉近くから移動しているため。
白雪が彼を治療する場面で彼女の背後に色の変わった石畳と扉周りの壁、空間があるので通路へ続くのは明白。
白雪はシュカとの会話で原因が分からないと悩んでいる。
わからないと言いながら露骨に画面には薪が燃えているのだ。
初期症状が同じなのに、今は人によってまちまち。露骨に描写され続ける薪。
改めて見ると相当わかりやすい構成だ。
初めてみたときはいきなりダウンしたと思ったが、確認のために見ると相当丁寧に原因が描写されている。
どうしてシュカの方が砦に滞在しているのにダウンしないのか。
彼が決して毒物耐性がゼン並にあるわけではない。
彼もヒントとして、外で見張りをすることが多いと証言している。
小休憩した程度のシュカが復帰し、白雪が倒れた。
画面の端で赤々と燃える暖炉、膝をつくときでさえ白雪は燃焼物の近くにいるから明るく、シュカは遠いから暗い。
そして白雪が答えにたどり着きそうになってから、ぐるっと視点を暖炉から最も遠い扉側に向けて回す。
暖炉近くにいる兵士はふせっているのに、壁際の兵士はコップ片手に談笑している。
同じ室内に露骨なまでの差が生じているのだ。
もう良いだろうというくどさで暖炉に移り、薪が爆ぜて火の粉が舞うカットが挟まれる。
白雪がそうしてやっと原因が薪だと突き止めた。

これが丁寧な作りかと痛感した。
わかりやすい例だったが、意図的な偏りの描写は意味があったのだ。
工数削減などくだらないものとは異なる。
むしろここまでお膳立てがあったのに途中一切気づかなかった己の不明さを恥じ入るばかりである。
外にいたゼンとミツヒデに解説した白雪の手は炭で汚れ、体調も有害物質で発症している。
ここまで全体の半分程度だ。
後半は盗賊の殲滅、ゼンと白雪の交流といった見どころがまだまだある。
最後は砦の兵士全員から笑顔で見送りを受け、ゼンの独白で締めた。
見終わったときの後味もすっきりしている。

さいごに

先にあげた第5話はまだスタートラインくらいだろう。
白雪とゼンの関係は気安い友人くらいなものが強く、オビはまだお試し期間。
白雪の身分も同様に見習い。
ここからさらに物語は続いていくが、どれもいきなり時間が経過したり国に一大事が起きて戦乱が巻き起こったりはしない。
ひたすらに青春、ドラマの連続性が寄り添い続けてくれる。
アニメは2期とOVAまで作られているほどの人気ぶり、原作も執筆時点で連載中。
白雪は色々な人と知り合うが、ゼンとの関係は一途なまま。
まっすぐすぎる作り込みは時に人を退屈させてしまうかもしれない。
それでもなお静かに染み入る優しさに触れたいのならば、この作品を手に取るべきだ。

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