レビュー:心にしみる一杯を楽しむひととき、バーテンダー

引用:https://web.archive.org/web/20090418045012/http://www.bartender-tv.com/top.html
©城アラキ・長友健篩/集英社・バーテンダー製作委員会
目次

概要

神のグラスと呼ばれる至高の一杯を作り出す天才バーテンダー佐々倉溜。
彼がいるイーデンホールというバーにやって来る客は、差し出された一杯に心を奪われる。
溜が客にあったカクテルを用意しながら、その酒にちなんだエピソードを教えてくれる。
カクテルを飲めば思い出や感情を蘇らせ、人々の心を癒やしていく。

敷居の高さを感じる大人向け

バーテンダーは2006年放送版と、2024年放送版がある。
後者はサブタイトルに神のグラスと銘打ってあるので間違うことはないだろう。
2024年版は2006年版の続きではなくリメイク作品だ。
したがって、どちらを見ても問題ない。デザインやエピソードが違うので、そのあたりは各自の好みに合わせて視聴してもらいたい。
筆者の個人的な感想を述べるなら、オープニングとエンディングの曲に関しては2006年版の方が圧倒的に良いと予め伝えておきたい。
それと両者の中で最も異なるのは、描き方だ。
2024年版は溜が天才バーテンダーとしてのプライドの高さ、子供らしい好奇心が見える。
つまり、溜が客の前に積極的に出てくるのだ。
2006年版は森本レオの語りと共に進む、静かな展開なのだ。

オープニング、エンディングはどちらもナチュラルハイが担当し、どちらもしっとりした作りである。
オープニングは森本レオの語りと一枚絵で思わず「へえ」と感嘆してしまう知識が披露される。
エンディングは実写とCGの合成で、実際にバーテンダーが各話で出てきたカクテルを作ってくれる演出だ。
エンディングの冒頭でカクテルの名前、簡単なレシピ(酒と量)が紹介される。
使った酒も実際の写真が登場するので、これを見て購入すれば似たようなものが作れる親切ぶりだ。
2006年の溜はいちバーテンダーとして後ろに控えるようなスタンスであり、2024年のような自我を出して行動することがない。
そもそもリメイク版は新しい要素として溜はバーで働いているだけでなく、買い物など所用で外出している。
そして来島が酒を飲みながら語り手に専念するか、ホテル・カーディナルで溜をスカウトするべく足繁く通うかの違いもある。前者なら話を進めるための役割に徹しようと作られている。
後者はスカウトするために溜と接触を続けていて、溜はバーテンダーの立場なら優しく断り、オフのときは気安い態度で反論したりする。
あくまでバーでの出来事にのみ特化している2006年版とはまた違った楽しみだろう。

異なる理由は明白。原作の漫画に寄った構成をしたか、アニメオリジナルで改変したかの違いだ。
オリジナルの構築の結果、キャラクターのブレがかなり出ているので気になる人はいるかもしれない。
それでも上手くまとまった作風なので、原作を知らなければ違和感を感じることは全く無いほど。
気に入らないからとグラスを破壊しないのはノンストレスで流し見にも最適だ。
どちらにせよ、バーでの話なので当然登場人物は大人ばかり。
何らかの悩みを抱えてやってくる客に一杯の酒と、それにまつわるエピソードがキャラクターか、あるいは天の声の語りで紹介される。
それと、この一杯のグラスによって世界が大きく急転するようなことは一切ない。
当たり前だが静かな世界観で現実的な作品づくりであるため、劇的な変化は不必要なのだ。

バーを取り扱う珍しさ

バー(酒場)を取り扱う作品は雑誌連載されている総数から考えて、少ない部類と考えてまず間違いはないだろう。
連載している雑誌も少年誌ではなく青年誌が主戦場。月間連載のほうが「それらしさ」を感じられそうだ。
少年誌だから子供しか読まないような幼稚で低俗とみなしているわけではない。
どの雑誌でも素晴らしい作品はあり、様々な事情でメディアミックスされる。
商売だから売れるタイトルが優先的に取りざたされているだけなのだ。
決して、ドラマ化や映画化されていないから駄作とレッテルを貼ってはいけない。
さて、多感な時期を送る青少年が、青年誌で繊細に進む大人向けの作品を好んで読むのは珍しいだろう。

「バーテンダー」はもとより、他のバーを題材にした作品を調べてみても、描かれているのは静かで豊かな時間の流れだ。
客がやってきて酒を頼み、ただ飲んで終わるわけにはいかないので見せ方の味付けに個性が出てくる。
バーテンダーをするキャラクターの技量の高さに感心したり、客の悩みを普遍的かつ幅広い人に理解されやすいものとする。
そこへ解決の手助けにそっと差し出される一杯のグラスと、説教臭くならないよう気遣いされた酒にまつわる物語の紹介。
様式美はきっちりわかりやすいものがあるので、いずれかひとつ作品を読めばおよその流れは掴めるはずだ。この作品以外にも、面白そうなものはあるし、気にいる一作が見つかるだろう。

だからこそ難しいといえる。
展開が性質上どうしようもないのだが、緩急や落差に限界が生じやすい。
リアリティの高い作品づくりをする必要がある大人向けの作品である以上、酒を飲んだら光りだしたり巨大化したりするギャグ要素は差し込めない。
同様にバーテンダーならコンテストなどのイベントがあるものの、そこで地獄の修行を積んで炎を吐いたり謎の拳法を駆使して作る意味不明なキャラクターなど登場しないのだ。
良い方に捉えたら落ち着いた、悪い方に捉えたら地味でつまらないといえる。
故に、バーテンダーを見るときも真正面から考察を重ねて見るよりも、ながら視聴をすすめたい。
画面に集中して見たところで正直情報量はそれほど多くない。
それなら作業の傍ら、移動時間の車や電車の中で見る程度の気楽さの中で見たほうが視聴疲れもしづらい。
動きがなければ情報処理にかけるリソースも少なくて済む。
キャラクター同士で踏み込まないよう線引きが明確にされているおかげで、言葉少なめで気遣いによる先回りのもてなしや準備がなされたところで気が利く程度で結論付けできる。

視聴するにも人はエネルギーを消費する。
特に独特な世界観、難解な設定や用語、あちこちに散りばめられた伏線に考察や推論を行えば行うほど、1話視聴にかかるストレスは重たくなってくる。
そうしたストレスが過剰になってくると視聴疲れから離脱してしまい、結局最後まで見ずに終わってしまった経験がある人もいるだろう。
あれはつまらなかった、肌に合わなかっただけでなく、制作側から出された情報の重さに息苦しいや苦痛を感じたからだ。
人が1日に処理できる情報量に限度がある以上、苦痛とみなしたものを再度手に取ることはない。
そこでこの手の少ない作品がうってつけなのだ。
流し見しても展開が追えるくらいのライトさなら、疲れたときでもとりあえず流し見する選択肢が現れる。
何度も繰り返せばいずれ完結するし、気になった場面は巻き戻しでもして見れば疑問点の解決になる。
そうした使い方が出来るのだ。
日常の余暇の楽しみの中で、僅かに空いている小さく挟めそうな隙間にこうしたジャンルがぴたりとはまるのは、大作には無い利点である。

さいごに

小難しい話や設定を提示されているわけではないので、思考するためのコストはそう大きくない。
取り扱う題材が題材だけに、どうしても話が膨らみにくい。
メリハリの効いたものを好む人には合わないだろうが、しんみりしたい夜にそっと見る分には適していると思う。


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次