レビュー:エリスの聖杯は、貴族同士の陰湿なやり取りを見るところ

引用:https://eris-seihai.com/
©常磐くじら・ドリコム/エリスの聖杯製作委員会
この作品のポイント

貴族の陰湿な戦い
亡霊と手を組むバディもの
主にミステリーとサスペンスが続くので、日常回が少ない

目次

概要

誠実なことしか能のない弱小の子爵令嬢、コンスタンス・グレイル(コニー)は罠にはめられた。
打算で婚約した男が別の貴族の女へ浮気して、浮気相手の女からあらぬ嫌疑をかけられたからだ。
周りにいる人は誰もコニーを助けなかった。
このままでは自分は潰されて終わる。
四面楚歌な状況、眼の前が真っ暗になったコニーは助けてほしいと願う。

突然、コニーの耳元で助けてあげると女の声がした。
気づけばコニーの意識は外に出され、別の何者かがコニーの体を操っている。
声の主は、かつて悪女として10年前に公開処刑されたはずのスカーレット・カスティエル。
スカーレットの話術と態度で返り討ちにして、ついでに打算の婚約した男とも婚約破棄。
自由の身になったコニーは、助けた見返りとしてスカーレットの復讐を手伝うことになる。
貴族社会に渦巻く陰謀。スカーレット処刑の謎。
巨大な策略の中へ奇妙な2人が飛び込んでいく。

白から黒へ落ちる少女

コニーはグレイル家のモットーである誠実さを売りにしていた。
しかしどう考えても誠実だけではやっていけないのは、誰だって分かるものだ。
それは相手が完全に善人とは限らないからだ。
いや、善人ですら損得勘定を混ぜて人付き合いはするもの。
それを悪どいなどと批難するならば、純粋というべきか、単に世間知らずというべきか。

さて、グレイル家は借金のために、望んでいない相手と愛のない打算まみれの婚約を交わした。
相手の男は別の女と浮気しており、ちょっとした噂にのぼっていたがコニーは見ないふりをした。
だが噂は真実であり、庭の茂みで逢瀬を楽しむ2人の姿を目撃してしまう。
それだけでも頭が痛くなるのに、意地の悪い浮気女からは窃盗の容疑者に祭り上げられた。

窮地はスカーレットがコニーの魂を一時的にどかして憑依、コニーの体でスカーレットが糾弾しかえしたので助かる。
見返りとしてコニーはスカーレットの復讐を手伝う羽目になった。
復讐の手伝いなので情報収集のために騙り、脅しなどを平気で使う。

最初は騙すことに抵抗感を持ったコニーだが、必要なことと割り切るようになる。
彼女はスカーレットの復讐や自分の境遇を振り返り、これまでの自分と決別した。
それが黒になるということ。
騙りや脅しを手段の1つとして有効利用し、相手を出し抜いてでも実を勝ち取りにいく。

誠実のコニーの評判は、彼女が幼い頃から積み上げてきたものだった。
しかしそれが一体何の役にたっただろうか。
騙されて借金を背負い、あわや犯罪者扱いで何らかの罰がくだされるおそれすらあった。
ただ清廉潔白、何ひとつシミのない清いものが、貴族社会で上手く立ち回れるはずもない。
コニーはスカーレットと出会い、スカーレットの苛烈な価値観に触れたのをきっかけに新しい成長をとげた。

後先考えない行動。しばしば出てくる性根故の甘さがピンチを呼ぶ。
一筋縄でいかない奴らを相手取るには、スカーレットだけでは力不足。
そこを補うように、コニーの人柄の良さが出てくる。
スカーレットが切り捨てようとするものをあえて拾った結果、思わぬ形で協力者になったり理解者になってくれたりする。

全き黒では悪党どもと変わらない。
白も黒も兼ね備えた淑女になることが、彼女たちの復讐を完遂するために必須の条件なのだ。

それなりにミステリーとサスペンス

かつてスカーレットの友人だったリリィは、絵画の裏に手紙とある物を隠していた。
エリスの聖杯を破壊しろという短いメッセージと謎の鍵を序盤入手したコニーたち。
タイトルでもあるこの単語が分かるのはアニメだと中盤以降になる。
そこまでは復讐のための情報集めをする段階。

仲間もおらず、何故スカーレットが公開処刑されたのかすら分からない。
そもそもスカーレットは公爵家。貴族社会の位階では最上位の存在だ。
よほどのことをやらかさない限り、公開処刑されるなどあり得ない。

少し例示するが、現実で多くの人間を殺めたエルジェーベト・バートリは伯爵位。
農民、下級貴族の娘に対し残虐な行いをし続けた彼女は裁判にかけられた。
共犯の従僕は処刑され死んだが、エルジェーベトだけは高位の貴族(家系)なので処刑されなかった。
代わりに自身の寝室に封じ込められ、死ぬまで一生幽閉処分となっただけである。

伯爵位でこれだ。公爵ならより処刑の可能性は低い。
罪状は王太子妃の暗殺未遂。
確かに王族に手を出したとなれば重罪は納得できる。
第一王子とスカーレットは婚約関係だったが破棄。
後から来たセシリアが王太子妃の座を射止めた。
だからスカーレットはセシリア王太子妃を恨みから、という筋書きが一応成り立つ。
ただスカーレットは殺すほどの理由がなかったと語った。
そうした部分も調査が進むにつれて少しずつ分かってくる。

物語はエリスの聖杯やスカーレット処刑に関する謎、それに関わる犯罪集団との対峙が絡んでくる。
誰が敵なのか見えず、不審死したかつての人がもたらした情報、道中で協力してくれそうな人の離脱などサスペンス要素も多い。
貴族社会は平民からしてみれば全貌は見えない場所。
そこでは欲と狂気による策謀が常に渦巻き、昨日の味方が今日敵に寝返ってしまうこともざらだ。

薄い線でしか繋がらないから一枚岩とも言い難く、外部からの影響であっさり崩れる。
コニーは要所でスカーレットに変わったりしながら一歩ずつ真相を明らかにしていく。
暗殺に関わった人物、国中で密かに広がる幻覚剤、それらを扱う集団。
ひとつ分かったら新たな疑問が生じてくるので、区切りよく一息ついて……といったエピソードが無い。
常に危険を運ぶ怪しげな影が、コニーたちの周囲にちらつく。
緊迫感を売りにしているなら、それが充分伝わるつくりにはなっているだろう。
多少人死にが出たところで、明らかに一般人とは違う世界の住人の闘争の結果だ。
その手の情報を嬉々として集めるのは記者か、あるいは何か事を進めたい人間のどちらか。
表立って騒ぎになっていないのはそういった点からだろう。
ストーリーの都合といえばそうだが。

誰も考えなかったのか?

まずスカーレットの憑依能力について一切語られていないことだ。
彼女は霊体であり、感知したり見聞きしたりできるのは一部の人間。
いわゆる霊感持ちのタイプ。作中では希少だ。
そこまでなら納得できる。しかしスカーレットの攻撃能力は別。
彼女は自由意志によって雷撃を放つことができる。
使いすぎれば疲労するのか、しばらく休眠するみたいだが。

この力は概念的なものではなく、物理的に影響を及ぼしている。
対象へ危害を加える、障壁のように弾くのはオカルトパワーすぎる。
取り憑いたコニーから離れられる、霊体なので基本探知されず情報は筒抜け。
スカーレットの記憶力は生前から抜群に優れているので、忘却や記憶違いが発生しない。

都合が良すぎるのだ。
話を動かすうえで彼女の能力はオーバーパワーで、究極コニーはある程度の位置から安楽椅子探偵に近いことが出来る。
コニーの推理力や行動力は(一般の範疇で)中々できる程度。
これでコニーも超がつく切れ者だったなら、物語は成立し得なかった。

爵位を軽視しすぎている

それと気になるのは爵位の差である。
基本、爵位の有無から世界が変わると思われがちだが、そこから爵位の上下でも変わってくる。
グレイル家は子爵。下から数えたほうが早い下級だ。
対してカスティエル家は公爵。最上位である。

この爵位、ひとつずれただけでまともに相手されなくなる場合がある。
下級貴族が上級貴族に接見すら叶わないのだ。
コニーの友人のケイトが男爵家だが、男爵以下だと貴族社会なら木っ端だ。
夜会の招待状すら届かないことだってある。
相手は自分より身分の低い、卑しい家柄の人間だから。

まだグレイル家は設定上子爵なのでマシだった。
とはいえ、コニーが新たに婚約したランドルフ・アルスターは公爵。
協力者のひとり、アビゲイル・オブライエンも公爵。
コニーたちに貴重な情報と時間を与えたスカーレットの友人のリリィは侯爵。
そう、どう考えても最上位やそれに近い連中ばかりと親しいのが問題なのだ。

王太子妃やカスティエル家と関わるために、序列が相当高い家の支援が必要なのは当然だ。
しかし、こうも高い連中ばかりと対等に話し合いをしているコニーがおかしい。
本来ならコニーの身分を考えれば同じ場所で呼吸し、意見し、何らかの要請を出せる立場ではない。
むしろランドルフやアビゲイルの言葉を最重視しなければいけない。
それが貴族だ。

物語の最序盤、パメラによってコニーが貶められようとした場面。
パメラの家は何と男爵家。
コニーはそれより上位の子爵家なので、本来ならパメラがあそこまで攻撃して良い立場ではないのだ。
窃盗疑惑をかけてはめてやったと高を括っていたが、相手の身分ひとつまともに考慮できないのは頭が悪いとしか思えない。

話の都合で知能にデバフがかけられているようにしか見えないのだ。
したがって、爵位(身分)に関わる様々な違和感やツッコミどころは作者をはじめ制作陣の問題。
それらを無視してフィクションだからで流そうとするのは簡単だ。
しかし貴族社会のあれこれを題材に取り上げるなら、最も気にしておきたい要素のひとつを無視するのはいかがなものか。

さいごに

スカーレットの特殊な力、協力者がコニーの家柄から考えて雲の上の人など、怪しげな点は多い。
それらから目を逸らし続けてしまえば、雑な日常回を早々挟まず延々とサスペンスをしているので楽しく見られるだろう。
周りの貴族連中がパメラへの制裁として、靴を脱がせて延々とダンスさせるのは中々悪趣味だと思った。
そういった陰湿な話を見たいなら、この作品を見る価値はあるだろう。

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