レビュー:あえて遅く見せることの良さ。ヘルモード 〜やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する〜

引用:https://hellmode-anime.com/
©ハム男/アース・スター エンターテイメント/ヘルモード製作委員会
この作品のポイント

ゲーマー気質の人間が、異世界で地道な活動(成長)をする
無双系だが、あえてスピードを抑えてじっくりと足場を固めている
作画は美麗ではないが、問題視するほどではない

目次

概要

生半可な難易度を好まず、やり込み要素が多いゲームを探していた男性は、とあるゲームをプレイしたことで転生した。
そこでは農奴として生まれ、アレンと名付けられた。
アレンはあえて初期設定で最も高難度のモード、かつ最難関の職業を選択している。
そのせいで他の皆よりスタートダッシュに躓くし、意外とシビアな世界で人が生きていることを痛感した。
だが、やり込み上等のアレンはレベルやスキルの上昇すら困難な世界で冒険をすべく、試行錯誤を繰り返す。
そして、絶望的な状況となっている勇者と魔王が戦う世界で、自分が転生してきた意味を知るのだった。

あえて速度を落としたストーリー

無双のサブタイトルがついた時点で、ジャンルが苦手な視聴者(筆者含む)はすぐため息をつく。
始めの数話で超成長した主人公が勝ちまくり、モテまくりという面白くもない既視感のある量産型を拝まされることへの諦めだ。
しかしそこで意外性を出したかったのか、わざとこの作品は成長速度にマイナスを足した。
主人公の性格を理不尽系の高難度好きにしておき、そこから最高難度、職業にすることで大幅に序盤の足かせを作り出したのだ。
最終的に能力は加速度的に上昇する(もしくは上限値が凄まじく高い)はずなので、タイトル詐欺にも引っかからない。
2つの意外性で視聴者の興味を惹きつける、単純ながら効果の見込めそうなフックに釣られてしまった。

世界はゲームマスターが創造神として異世界に知られており、時折アレンに向けてメッセージをお知らせとして送信している。
アレンは選択した設定で成長がとても遅く、特殊な能力を持つ人間が誕生する世界では特に期待されていなかった。
農奴の1人として開拓者村の労働力の足しになる程度、家族が増えた程度だと思われていたのだ。

生まれつき与えられる職業はそれなりに色々あるらしい。
戦士や魔法使いのような戦闘職、商人のような技術職などあり、どれが備わっているかランダム。
そこで剣聖のようなフィクションならお馴染みの強そうな(珍しい?)ものなら、周囲から羨望の眼差しを受ける。
アレンと同じ村で生まれたクレナは剣聖の才を授かったことで、農奴の身分でありながら学園へ通う道が開かれたのだ。
そのときのアレンは神々(異世界を作った制作スタッフ)が設定の入力をミスしていたせいで、文字化けして正しく評価されなかった。
無能だったとしてアレンの父が彼を慰めるが、そこに特別な悲壮感はなかったので(才能なしは)よくある光景なのだろう。

ヘルモード、召喚士の才がさらに活躍を遅らせた

アレンの召喚スキルはレベル、熟練度(スキルレベル)を上げていかないとまともに機能しない。
ゲームの大器晩成のジョブにありがちなスケーリングタイプ。
また、世界はオンラインMMOに実装されるような仕様がある。
あらゆる行動に熟練度が設定されているらしい。
アレンは特性で年単位の修練が必要になってしまったが、投擲や剣術など才能に関係なさそうなものでも育てられる。

ゲーマーの性で、アレンはゲーム世界を堪能すべく日々親の目を盗んでは検証や実験に明け暮れた。
他人の視界に映っているかわからない(おそらく映っていないだろう)データブック(?)から、アイテムの収蔵、ステータスの確認、召喚スキルに関する管理を一括して行う。
召喚はカード生成を伴い、魔力を用いて合成や強化などをする。
作ったカードは保存数が限られており、カード1枚につきそれぞれ特有の補正がかかる。
データ管理が好きな人にはたまらない仕様だろう。

劇中でも速度が欲しい、筋力を増したい、知力をブーストするといった用途に合わせてリアルタイムの書き換えをやってみせた。
収蔵量はレベルか召喚レベルのどちらかで影響されているから、基本使えば使うほどいつかは上がる仕組み。
限界値が高い召喚士(+難易度ヘル)で時間が経過するほど召喚士が凶悪に見えてくる見せ方だった。

しかし召喚するモンスターが倒されてしまえばカードそのものが消え、補正値も落ちる。
敵と負けない間や補充できる間は強力でも、1度資源切れを起こしたり劣勢を打開できなければそのままジリジリ負ける危険性もある。
そうした勝っている間は強く、コケると唐突に弱点が露呈しだすのを序盤に提示できたのは良いところだった。

人間相手にあえて勝たせなかった

召喚士はステータス補正がついたとしても、人や獣問わず上には上がいる。
勝てると調子に乗って挑んでみたら苦戦してボロボロになるし、這々の体で逃げ帰る無様さも出した。
しかも1度見せたらそこからずっと無敗にせず、時々苦戦したり逃げの一手しか打てなかったりピンチの演出を重ねる。
そうすれば視聴者は結果が分かっていても、勝つまでの過程を楽しめるのだ。
また、必ずしもアレンの手(召喚物含む)で決着をつける必要はない。
最終話で勝ち目のない相手に対し、アレンが奉仕している家のお抱え騎士団長に丸投げしたのも、そうした意図があってのことだろう。

そもそも、アニメの中でアレンが人との勝負に勝ったことはごく少数。
付け加えるなら、大人相手の戦いで勝利していないのだ。
開拓村の農奴時代、ドゴラを常にあしらうほどの実力差。
従僕になる旅立ちの朝、クレナとの騎士ごっこで勝利。
それくらいである。
特に大人相手に勝たせないのは意図的といわずして何であろう。

従僕時代に助けた冒険者と知り合いになるが、アレンは彼らを助けた結果仲良くなった。
団長には勝てなかったし、後述するある人物にも白星を挙げられなかった。
これこそ物語のフック要素として作者や制作陣が考えた、あえての外しである。
すぐに無双してしまえばパターンが平坦になるし、賞味期限が早くなる。
しかし無双しているキャラクターを楽しみたい人へ魅力を提供するために、モンスター戦は一進一退の攻防や物量による圧勝をみせた。
対人の戦績を悪くしておくことで、今後のアレンの成長に応じて活躍の場を増やせる。

また、途中から都合上物語から退場したクレナにも花を持たせられる。
彼女は剣聖の才から騎士団長に勝利し、また剣術系の腕前だけならアレンを圧倒した。
いきなりアレンを最強にしてしまうと、彼女の実力とは一体何だったのかという結末にしかならない。
つまり、キャラクターの使い捨てだ。
どれだけ魅力あるものを足したところで、描写されず感情移入も受けなければ、いてもいなくても同じ。

開拓村のキャラクターを学園編でも使いたい、見せ場を与えたい思惑が伺える。
そしてその思惑は決して不快ではなく、素晴らしい判断といえる。
常にあらゆるところで命のやり取りを求められるほどの終末世界ではないのだ。
じっくりと足場を固めておきたい堅実さを、どう悪しく扱えるだろうか。

区切りよく終わらせる

また、中盤で退場してしまうキャラクターにただの1度も勝てなかった。
まだ互いに成長の余地が残った状態で、育つ環境の違いや成長速度の違いが大きく関わっている。
いいところまでいけそうでも負けてしまう。それも複数回。
リベンジは叶わず、勝った相手はある役目のために退場してしまった。

まだ手が届かないところにいる相手が呆気なく消えてしまう。
そのような場所へ、奉仕先のお嬢様が行かなくてはならない。
実力をつけるため、世界を冒険したい欲のためアレンは数年賭けて準備と鍛錬を積んだ。
物語は従者としての生活に区切りをつけ、客人となったアレンがお嬢様と共に学園へ通うことになるところで終了している。

今後の流れはおそらく見飽きた学園ものになるのだろう。
そうなってしまうと途端につまらなくなりそうなので、その前に終わらせたのは良い判断だった。
教育機関のカリキュラムは、どの作品でもあまり変えようがないのが欠点である。
その代わりに、視聴者が1度は経験した子供時代の思い出や経験と結び合わせて共感させやすい利点もある。
残念ながらどのような小説だろうと学校の話は大概同じような流れになる。
これは避けようのないものだ。
奇抜な設定の作品なら、そもそも学校を物語に入れる必要性は強く感じられない。
ずっと流れの冒険者なり何なりさせておけばいいのだから。

さいごに

作画が夕方の子供向けのように荒めだが、話に極端な問題がなく不快ではない。
多少見慣れた設定などが入るものの、全体的に落ち着いたテイストなので性急さがないのだ。
すると焦らずじっくり情報を整理して、キャラクターや世界観へ想像を膨らませる余裕が生まれる。
見ていて窮屈さや面倒さを感じさせないのは大きなプラスだ。

物語冒頭の現実世界からゲーム世界へ入るまでの話は、冗長に感じてしまう。
ただあそこから序盤のアレンの決意(考え方の変化)を出すには、ああいった前置きが必要だった。
後の展開を考えれば
少し耐えてしまえば、その決意のところからより安定した面白さになるだろう。
ゲーム世界のようで、そこに棲んでいる人には仮想でも遊びでもなくシビアに生きているという気付き。
それを自分への災難ではなく、他人へ降り掛かった出来事から痛感するのは人として自然で善性ある姿ではないだろうか。
総じて見ていて落ち着ける良い作品だった。


「ヘルモード 〜やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する〜」の書籍などを下記リンクで紹介しているので、1度手に取って検討していただければ幸いである。

また、dアニメなどの各種配信サービスでも配信されている。
似たような物語を楽しみたい方は、ぜひ登録してより多くの作品を楽しんでもらいたい。

https://amzn.to/4tbOanl
https://amzn.to/4bS6NWu



よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次