レビュー:願いと奇跡を受け止めて、いばらの王 -King of Thorn-

引用:https://www.sunrise-world.net/titles/pickup_294.php
©YUJI IWAHARA/PUBLISHED BY ENTERBRAIN, INC./Team IBARA
目次

はじめに

茨姫を知っているだろうか。
眠れる森の美女として訳され、ディズニーやバレエ、ミュージカルの題材にも選ばれているとても有名な作品だ。
古い民話である茨姫は魔法使いに呪いをかけられて眠りにつき、いばらで覆われた城は全てを拒絶した。
やがてある若い王子が眠り続ける王女を呪いから解き放ち、眠りから目覚めた王女は王子と結婚した。
さて、本当に王女は目覚めたかったのか。
王子によって呪いは解かれ、城で王女と共に100年もの間眠り続けた人々はそのままの状態で復活したが、ある面で言うなら眠っていたならずっと生きていられたのだ。
本来なら死ぬはずだった魔法使いの呪いを変質させて、死の運命から眠りの運命に曲げたのだ。
そこまでなら死なずに済んだから良かったとして、そこからはどうだったのだろうか。
眠っている間、夢を見ていたらどうだったのだろう。
夢は自分たちの理想の楽園を作ることが容易にできる。
これが夢と認識しつつも、夢の中をどこか浮ついた感覚で現実のように過ごすこともできる。
誰だって辛いことは嫌なのだ。
だからこそ、茨姫は100年の眠りから目覚めた方が幸せだったかは誰にも分からない。
物語では幸せだった。
だが、今を生きている人々に当てはめてみて、それが押し並べて正解かは難しいところだ。
いばらの王はこうした茨姫の物語にSF要素を足して構築されている。
彼らの物語を見て自分ならどうだろうと考えてみるのも、きっと悪くない。

概要

世界中で突然大流行した謎の石化病、通称メデューサによって人類は未曾有の危機に見舞われていた。
謎の奇病に対抗できる方法はなく、世界中から選ばれた160人の人間たちに未来の可能性を託すため、彼らをコールドスリープさせることとなる。
スリープから目覚めたカスミは施設中をいばらが覆い尽くし、モンスターが跋扈する惨状を見る。
病が治ったわけではない。
石化するのが早いか、モンスターに殺されるのが早いか。
何もわからないままカスミは生き残った人間たちで協力しながらいばらの古城となった施設からの脱出を目指すのだった。

緑と廃墟に覆われたパニックホラー

いばらの王はちょっとしたミステリー要素のあるパニックホラーである。
石化する謎の病を克服できなかった人類が、遥かなる時を経て好転するという一縷の望みにかけてコールドスリープを選択したところから始まる。
コールドスリープの室内は壁一面にカプセルがびっしりと埋め尽くされていた。
選ばれた人間たちはそこに収容され、眠り続けるはずだった。
しかし何らかのトラブルで中断された。
被験者たちは持ち込みに制限がかけられていたので時間が分からない。
今はどれだけ時間が経ったのかわからず困惑する人々の頭上に何かが飛んでいる。
それはコウモリのような、小型の翼竜のような奇怪な化け物だった。
化け物は大群で襲いかかり、たちまち地獄絵図となった。
パニック状態のままエレベーターで上階に逃げようとした多数の人間たちは、開いた扉の先、何も無いシャフト内へ落ちていった。
下では大型のモンスターが口を開けて獲物が落ちてくるのを待っており、落ちてしまった人間はもれなく食いつぶされる。
化け物どもは逃げ惑う人々を襲い、あるいは喰らい、辺り一面には血と骸が広がった。
そうして生き残ったのは僅か数名。非常口から外を目指すことになる。

この時点で読める展開と、明らかに読めない伏線(ですらない何か)がある。
慣れた人なら明らかに行動に違和感を生じさせているキャラクターを見抜き、ある程度の展開の予想が立てられるだろう。
とはいえ、割とすぐ怪しい雰囲気を漂わせるキャラクターがはっきりカット単位で差し込まる。
そこから誰がどの配役で動いているかを早期に予想できるかは人それぞれだ。
予想してもしなくても楽しめるのがエンタメの良いところだろうか。
さて、コールドスリープの場所には被験者だけで160人はいたはず。
彼らは全員モンスターに襲われて、初回の襲撃で数名程度しか生き残れなかった。
それにしては明らかに死体と血の量が足りないのだ。
描写の都合でカットされたと見るならもうどうしようもないが、エレベーターに100人以上落ちたとは考えにくい。
エレベーターが開く前に何人もの人間が襲われている以上、パニック状態で一時的な発狂(感覚の鈍麻?)になっていたとしても死体がある惨状に関心を寄せないのはおかしいと考える。
老若男女さまざまな人物、それも出身や職業すら違うのに、皆一様に無視しているのだ。
最初の襲撃シーンに限らず所々の違和感や謎をスルーし、これが何と終盤まで続くのだ。
そうした意図的な無視(隠し)を嫌う人もいるだろう。かくいう筆者もそのひとりである。
思わせぶりなカットを挟み続けるくせに、回答はかなり後になってからが多い。
そもそも退場がやや雑さを感じる部分もあった。
これに関しては人の好き嫌いに左右されるものなので一概に良し悪しをつけられるものではない。
納得できる作りならそれで良しとするべきだろう。終わってから文句を言ってもいいはず。

それと気弱な少女カスミが主人公なので、弱気だったり同調圧力を誘発するような発言で苛立ちを覚えることもあるだろう。
こういったパニックホラー系なら、序盤から強者感漂うマルコの発言や動きを見ているだけでも安心できるかもしれない。
彼のいうアミーゴは友達などを意味する言葉だが、これは対象が男性の場合。
マルコは女性ならアミーガと言っている。だいぶ聞きとり辛かったが。
物語は時折、童話を読み聞かせるような語り口でナレーションが入ってくる。
内容は眠れる森の美女(茨姫)であり、意識せずともタイトルのいばらの王がこの民話を元にしたものとわかるだろう。
さすがに元の物語ではコールドスリープ技術はないし、メデューサにいたってはギリシャ神話だ。
SF要素もふんだんに仕込まれているので、そこまでメルヘンチックではない。
明かされていく情報はある意味ファンタジーだが。

ひとり、またひとり

物語の進行に伴って人数が減る。
全員何らかのトラウマ持ちであり、秘匿したい過去を持っている。
ヒステリックに叫ぶ、やたら仕切る、何でもかんでもゲームに例えるなど、人間社会にはありふれたマイナス面だ。
ストレスが過剰にかかったりすると頻出し、時に妙なほど行動方針がぶれているようにも感じられるだろう。
その疑念は正しいものであり、何らかの誘導を常に生存者はかけられているのだ。
仕組まれた事件、混ぜ込まれた異物、狂気を正気で覆ったヒトモドキ。
さらに歪まされているとはいえ愚かではない。
ある人物の嘘を見抜くためのアイテムをしっかりと確認し、過去に描写された事実との矛盾を正しく
追求するシーンがある。
これを見抜いたキャラクターは、それまで怪しげな視線を送って意味深な態度を取っていた人と
異なるのだから少し意外性があった。
同時に、誰でも見抜くことができる観察眼、推理力がどこからもたらされたのか気になる点だろう。
そこも話しが進むにつれて、どう下駄をはかされていたのかが説明されていく。
パニックホラーなのだから生存者が死んで減っていくのは当たり前だ。
徹頭徹尾、全員が無事に生き延び続けたら恐怖感が薄れてしまう。
だから静と動の組み合わせが肝要だ。
いばらの王は状況の整理や情報の開示などで静をとっている。
とはいえ、パニック要素が強いのは中盤まで。
終盤からはSF要素がガン増しになるため、恐怖よりも感情移入できるかどうかが鍵になってくる。

実験

中盤、ややパニックホラーへ耐性ができてきた視聴者へ向けて、制作側は驚きへの溜めと情報開示をするべく動き出す。
眼鏡の男を犠牲にして端的な情報を流し、思わせぶりな感じでデータチップを託すも火に巻かれて焼失。
続いて酒蔵で登場したのはコールドスリープを始めとして色々やっていたヴィナスゲイトの代表のヴェガ。
彼の口から一気に情報が出されていく。
物語の解説を唐突かつ多量に流し込まれるので、それほど乗り気でなかった場合、当時シアターで観ていたなら眠りにつけそうなくらい暇なパートである。
古城の事故は偶然起きたものだった。
石化する病、メデューサは外宇宙からやってきた何かによって地球へ持ち込まれた。
メデューサに感染したが生き残った少女は、空想から何者かを誕生させる力を持ってしまう。
それを制御下におこうと様々な実験を繰り返した結果、少女は犠牲となった。
そしてコールドスリープ直前にふたり目の適合者が出現した。
圧倒的な力でAIの支配からも抜け出し、暴走するといばらが辺りを覆いつくしていく。
諸々話したヴェガがたどり着いたのは棺。
そこにはかつて最初の適合者であり、死んでしまったアリスという少女の亡骸が横たえられていた。
エンバーミングされた少女はぬいぐるみを抱えて眠るようにも見える。
ヴェガは一度自決をカスミに阻止されたが、ティムが怪しげな視線を送るといばらが床などをぶち抜き襲いかかってきた。
逃げるカスミが後ろを見ると、引火した炎と瓦礫に飲まれながらもアリスと共に最後の居場所を定めたヴェガの姿があった。
ここのティムは露骨に何者かに操作されており、ひたすら誘導されていく。
マルコは当然裏事情をある程度知っている上に頭が切れる優秀な人物なので、ティムが何者かに露骨な操作を受けていることを看破していた。
そうでなければ空が見えるほど上を目指してひた走ることなどできない。
ティムが疾走する間モンスターやいばらは全く登場せず、攻撃する気配すらなかった。
襲いかかっていたのは途中からほぼマルコに絞っている節すらある。
それは彼に課せられた役割のためかもしれない。

暴走した主

カスミは気弱でコンプレックスの塊持ち。
双子のシズクと常に比較して落ち込むし、両親は死んでいる。
そして自分たちも両親のようにメデューサに感染、カスミだけがコールドスリープに当選したことで負い目が加速して自暴自棄になっていく。
シズクはカスミをどうにか宥めて落ち着かせようとするが、既に半ば発狂しているカスミの衝動的な行動に巻き込まれてしまう。
ようやく外に出た4人。カスミは崖近くにあったビデオカメラの映像から、シズクがまだ古城にいると確信して単独行動。マルコたちはヘリで空中に躍り出た。
古城から生み出されたいばらの王は巨大化していき、とても近づけない。
キャサリンのブレスレットの色は既に黒。
ロンと同じく、タイムリミットがそこまで迫っていたのだ。
だからこそ脅してでもティムを遠くまで逃がしたかった。かつて出来なかった罪滅ぼしに。

マルコとキャサリンはいばらの王を見下ろしながら話し合う。
茨姫は本当に目覚めたかったのかと。
マルコは茨姫の正体にも当たりをつけていた。
過酷な現実に耐えきれず、夢の中で永遠に続く物語の中に逃避しようとした。
自分が大切にしている人を象った何かを生み出して、覚めない夢を見続けようとした。
マルコは洗脳の道具だったチップを首の一部ごと撃ち抜いて回復し、重傷になりながらAIのアリスのシステム停止を成功させた。

茨姫

一方のカスミは台座で眠るシズクを目覚めさせるべく、オルタナティブの静止を無視して這い進む。
自分勝手な欲望を喚き散らしながら台座に横たわるシズクの傍へたどり着いた。
しかし、台座から投げ出された右足を見ると、シズクにあった傷跡がない。
左腕は、カスミが浴室にてカミソリでつけたリストカットの跡。
これは誰だ、カスミなのか。
それでは、これを見ている自分とは何者か。
静止するオルタナティブを無視し、カスミは左手首を見る。
包帯で包まれて表面はどうなっているかわからない。
ブレスレットは個人差こそあるはずなのに、一切色が変化していなかった。
カスミだって、メデューサに感染しているからコールドスリープの対象となっていたはずなのに。
そうして最後の要素、左手首はどうなっているかが視覚的に描かれる。
ここまではパニックホラーだから手足に包帯を巻いていた。
手首を見ても、そこはブレスレットがあるから当然だと誤認させられていた。
実はカスミ、包帯で覆う前に一度自分の左手首を見ている。
皆はメデューサの進行具合を見るためだったが、カスミは左手首を見た時に自分の傷跡の有無をはっきりと視認しているはず。
約31分のシーンの答え合わせを約1時間後にしたのだ。
41分の警備室のシーンで包帯による応急手当ついでに全員手首も覆っておけば、気づかれない。
その後の回想で手首を切ったことが判明するものの、既に包帯があるので視聴者は確認できなかったのだ。
風呂場でリストカットした跡は残った。
スリープ前にブレスレットを覗き込むと、ちゃんと下に傷跡は見えるほどだ。

序盤にあった崖近くのふたりの会話の真相が明かされた。
シズクの説得もむなしく、精神的に追い詰められていたカスミが自暴自棄になり、シズクもろとも自殺しようとした。
いつか来るだろう終わりを覚悟していたように思えるシズクとて、発狂した家族と心中する気はない。
崖下に落ちたふたりの少女。
崖は中腰程度で登れるくらいの段差と、海面近くの地面のふたつがあった。
もみ合いでふたりは落ちたように思われたが、シズクは小さな段差に救われた。
傍らにメガネが落ちている。
カスミはどこへ行ったのか。
崖下の地面をシズクが見ると、そこには頭部から出血して倒れている双子の片割れ。
シズクのトラウマが最大限になり、振り切ってしまった感情がメデューサと反応してしまった。
そうして発現した力は、かつてのアリスと同等のものであり、シズクは実験室送りとなる。
制御を振り切って暴走するシズクはいばらで兵士や職員、その他大勢を攻撃。
さらにシズクはメデューサの力でカスミを生み出し、他の被験者のようにコールドスリープ装置に入れさせた。
カスミがマルコや眼鏡の男を見た記憶があったのはこれが理由。

オルタナティブ

今生きているカスミは、オリジナルのカスミではない。
シズクによって生まれたオルタナティブだった。
記憶はシズクを元に生成したのだろう。
オルタナティブは死ぬことがあるものの、寿命そのものは半永久でメデューサには感染しない。
AIを停止され、茨姫の正体を暴かれたことでいばらの化け物は落ちていく。
台座に眠っているのは、おそらく崖下で回収されたオリジナルのカスミの亡骸。
暴走してしまったが、シズクの願いはカスミの生存。
生きてほしいと最後の願いを受けたカスミはこのまま崩落する古城とともに死のうとしたが、またしてもシズクによって拒絶された。
光り輝くいばらで優しく追い出されるカスミ。
シズクはオリジナルのカスミを抱いたまま、優しくオルタナティブのカスミを見送った。
傷つけないいばらとカスミの小指がわずかに絡まった。約束してしまったのだ。
カスミは生きなくてはいけない。

全てが崩れていく。
目覚めのきっかけとなった若い王子(マルコ)と目覚めた茨姫(カスミ)は上へと走る。
ここまでかと落ちたふたりをいばらが最後の力を振り絞って包み込み、ネットのように変形して衝撃を和らげた。
ふたりを安全に下ろすと、全てのいばらは石化して砕け散った。
マルコとカスミは会話し、マルコは願いをカスミへ託した。
生死は不明だが、演出自体は死んだようにみえる。
最後に生き残ったのはカスミとティムだけ。
ブレスレットを投げ捨て、ふたりはティムの両親のいる場所を目指して歩いていく。
願いのないところに奇跡はないと信じて。

さいごに

原作と映画版は設定が異なる。
最後まで生存した人間や黒幕も異なるが、映画は映画で視聴後の感想はすっきりとしたものである。
茨姫となったカスミとティムはメデューサに適合している以上、彼らが石化して死ぬことはない。
いずれ終わりが何らかの形でやってくるかもしれないが、それはそれで良いことなのだ。
終わりがなければ夢を見続けているのと違いはない。
夢から覚めてしまった以上、誰かの願いを受け取ってしまった以上は生きて使命を果たさなければならないのだ。
矜持が必要なのだ。特にどうしようもない世界で生きていこうとする彼らには。
ラストカットの赤い薔薇の花言葉は、愛に関する言葉で満ちている。
一条の光に希望を見出すことが好きならば、いばらの王をとても楽しめると筆者は思っている。


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