レビュー:作者の願望が丸見え、異世界のんびり農家

引用:https://nonbiri-nouka.com/
© 内藤 騎之介 /「異世界のんびり農家」製作委員会
この記事の要点

現実逃避や万能感への欲求を満たす需要と供給に基づいた、現代社会に疲れた読者のための救済装置的な作品。
農具が工具や建築にまで及ぶ定義の広さや、病弱だったの主人公が最初から超人的に動ける点など雑さ。
外来種の持ち込みという環境問題を無視する思慮の浅さと、露骨なハーレム形成。

目次

概要

街尾火楽は死後に神様と出会い、異世界への転移(転生?)を提案された。
神からもたらされたのは、病気にならない体と万能農具。
人がこない場所を望んだので、火楽が現れたのは魔物が跋扈する森だった。
前世の知識などを活用して開拓を進める火楽のもとへ、多くの種族が集う。
人数が増えたことで規模が拡大し、大樹の村と名付けた。
村長になった火楽は近隣の住民、果てはドラゴンなどと交流するようになる。

ストレスフリーな男の妄想の具現化

「異世界のんびり農家」と銘打たれたこの作品は、量産型なろう系にありがちな構成である。
冒頭は神の謝罪と転移に恩恵を与えるところから始まる。
死んだ人間を選び、特定の年齢まで若返らせつつ異世界に誕生させるのは、転移か転生のどちらだろうか。
神は人間よりずっと高い次元にいると想定するならば、それがいちいち人間ごときに謝罪する必要は全く無い。
さらに別の世界で別の人生を送らせるのはともかく、何故恩恵や加護を与えるのだろうか。

なろう系の読者層は現実世界における自分の境遇を呪い、フィクションに自己投影する傾向があると見たことがある。
もちろんその情報は正しく検証されたデータではないし、主観まみれの俗説である。
しかし、少なからず超常的な何かを授かった状態で異なる世界、時代に生まれて大活躍する流れはメジャーだろう。
あえてそれを外して意外性を出したい作家もいるが少数である。
現状に満足できないからと空想に浸ってストレス発散するのは、精神を健康に保つうえで良い行動だろう。

そうした自己投影したい人にとって、この手の作品は大きな助けになるのだ。
自分では未だ成し遂げられないこと、叶えられなかったことを代わりにしてくれる。
行動した結果どうなるかを見せてくれる。
感情移入し、まるで自分が主人公と同じような生き方をすればこうなるのだと思わせてくれる。

それで良いのだ。
全ての人々が困難に打ち勝つために、今日から一歩ずつでも変わろうとしなくても構わない。
そこまでしなくても誰も責めないし、批判されることも早々ない。
現代社会に疲れた人だからこそ、誰もいない空間で好き勝手に日々暮らしたいと思うものだ。
だからこそこの作品は生み出されたし、これを手にとって楽しむ人がいる。
確かに需要と供給があるのだ。

万能農具は火楽(作者)の解釈次第

万能農具は神から与えられた恩恵のひとつで、神の持ち物の劣化版らしい。
火楽の想像に応じて形を変えるらしく、これを使う間は体力の消費がないとか。
本来なら神の道具なので使えば生命力を大きく失って死ぬところを、恩恵によって釣り合いが取れてしまっているらしい。
結果、凄まじく便利使いできる道具をいつでもどこでも火楽は振り回せるのだ。

生命エネルギーを大幅に強化されたことで得られたメリットは、万能農具の無制限の行使だけではない。
常に元気なので、ヒロインたちとの夜の営みすら毎日何度でも出来てしまう。
そのせいで、火楽の最初の妻であるルーがティアに向けて、火楽の夜の相手をしてとお願いするほど。
ただの体力バカにしないで精力旺盛にもしておくのは、作者から読者へのサービス精神だろうか。

万能農具が変形できるのは、動力源を使わない手動農具に分類されるものだ。
しかしこの手動農具に定義されるものが、作中だと相当おおらかになっている。
クワやスキといった畑を耕すものは当然で、斧やナタみたいな木材を伐採するものはまだギリギリ理解できる。
しかしノミなど明らかに工具が該当するのは、農具としておかしいと感じなかったのだろうか。

斧やナタで伐採するのは林業になるから農業ではない。
ましてや斧が出せるのに、カンナが出せないのは意味不明だ。
ナタでカンナの真似事をしていたが、用途が違いすぎて不適格。
ノミで道具を作っていた時など、もはや農業をどう作者が理解しているか分からない。
林業に関する道具を生成してよいなら、万能農具ではなく万能道具と銘打つべきだった。

作者が考えて作中披露している開拓の様子は、第1次産業というもっと大きな枠組みと思われる。
第1次産業なら林業や漁業、鉱業とより広くとらえられる。
おそらく作者はこの作品を作るにあたって題材を考えていたときに、林業や漁業、畜産業などは農学のいち分野だという情報を調べたはずだ。
だからこそ万能農具、異世界農家と設定を広げていったに違いない。
読者からすれば、第1次産業にそれらがあるのは知っていても、まさか畜産なども内包されているとは思わなかっただろう。

ただし農学はあくまで学問の1種。
現実に置き換えてしまえばすぐ分かることだが、個人が2つ3つと業を兼ねて仕事などしない。
先に述べているが、農家とあればまず想像するのは、植物を育成させる生産業の人だ。
畜産農家を兼任はギリギリできても、林業を兼ねるなどどうかしている。
住人が増えた結果、それぞれの適正に合わせて業務を差配するなら適当だが、この物語は最初から全てをごちゃまぜにしているのだ。

農具で建造物を建てるのもどうかしている。
その木槌は農業で使うものか、もう1度考えるべきだっただろう。
設定のすり合わせが正しく出来ていないから違和感が発生するし、整合性が取れなくなるので破綻しやすい。

死の森の環境、インスタント農業について

まだ死の森にある大樹の近くに火楽とモンスターしかいなかった頃、塩は一切なかった。
人間として迎え入れたルーが、取水のために掘っていた穴の断面に塩の層があると指摘している。
これでようやく塩が手に入ったと火楽が喜ぶ。
何ともご都合が見える場面だ。
サバイバル生活をしなくてはいけない火楽が、水の確保はするくせに塩の調達を放棄しているのは違和感がある。

アイドルがあれこれしていたというのは、言うまでもなく「ザ!鉄腕!DASH!!」が元ネタだ。
あれは第1次産業の企画が中心だったから、彼の知識の多くはここから来ていることになる。
脚本があるテレビ番組の中でさえ、農業の大変さや生きることの難しさを説いているにも関わらず、この主人公は何を見ていたのか不思議である。
水だけでどうにかなると思い込めるのは才能でしかない。

環境が整う前、火楽のもとへモンスターが飛び込んできた。
彼はモンスターをクワで殺して、ばらして肉として食べる。
その後も農業のかたわら、のこのこやってくるモンスターを攻撃して食べるが、妙に感じなかったのか。

火楽が与えられたのは、病気にならない体と万能農具。
決してどのような相手にも太刀打ちできる強靭な体ではない。
病弱で体を起こすのも久しぶりとのたまう主人公が、最初から活動的に行動しているのもおかしい。
まず体の動かし方、重心の取り方を忘れて上手く動けないところから始めてもおかしくないはず。
それがすたすた動き回り、穴を掘る肉体労働をこなしている。

彼がいる死の森は危険なモンスターがいるので、普通の人は近寄らない。
そこで生息するホーンラビットなどの化物相手に、どうして一般人の彼が一撃必殺を決められるのか。
ステータスオープンなどと言わないのは良い点だが、現実にいなかった化物相手に怖じけず殺せるその身体能力の高さは何だ。

農業に関しても雑極まりない。
念じながら農具を行使すれば、その大元の植物の種(菌?)がどこからともなく出現するのは恐るべきことだ。
火楽はルーたちの世界に、地球という別世界の植物を持ち込んでいるのだ。
いわば特定外来生物(植物)を嬉々として放っていると同義である。

また彼は蜂を飼育することで虫媒花を目論んだ。
彼が別世界から持ってきたものは虫、鳥、人によって様々な地域に流出し、程度によってはその地の環境を破壊しつくすおそれがある。
環境保護を火楽たちが考えていないのは明白だ。
作中で排水を川に垂れ流すのはいかがなものと彼が悩み、浄化のためにスライムを下水処理に用いた。

水質汚染のことは気にかけるくせに、目の前の自分が行っていることへ何の意識もないのだ。
そのくせ火楽本人は人畜無害な面構え、振る舞いを見せている。
可能な限り無個性(あるいはいい加減な何か)にすることで自己投影のしやすさを高めているのだろう。
だがこのように考えなしでは、投影しようとする読者達も火楽と同じ程度だと暗示しているように思える。
昨今の環境保護に真っ向から唾を吐きかけるスタイルを硬派と呼ぶべきか、筆者は考えることを放棄したい。

性別の比率があまりにもお粗末

チートとハーレムの混合劇物をチーレムと呼ぶ。
品性など欠片もなく、悍ましいことこの上ないジャンルだが人気は高い。
これも例に漏れず、見事に性別が偏っている。
見渡す限り女性、女性、女性。
リザードマンは亜人要素を強くしているので除外。
モンスターはそもそも論外。
後半になれば男性キャラクターは増えるものの、数が圧倒的に少ない。

あくまで火楽のハーレムなのだ。
どっちつかずの顔つき、体つきの主人公を用意しておき、見目麗しき女性をこれでもかと配置する。
そうすれば1人くらいは性癖に引っかかるかもしれない。
設定で複数の女性と関係を持つことを明示すれば問題ない。
あなたの好きな人とくっつくところを妄想してほしい、そう読者へ向けて作者が用意してくれたものだ。
制作の意図があからさまである。

さいごに

何も考えず、ただ美女がきゃっきゃしているところを見て癒されたい、自己投影して満足したい人に最適な作品群の1つだろう。
確認のためにもう1度見直したが、やはり当時と感想はそう大して変わらなかった。
飲酒しながら寝落ち気味に見てみれば良いだろう。それくらいで充分だ。

「異世界のんびり農家」の書籍は下記リンクで紹介している。
怖いもの見たさで手にとってもらえたら幸いだ。
1期は今でもサブスクで配信されているし、2期も始まった。
あなたの睡眠導入の助けになれれば、これに勝るものもないだろう。

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