レビュー:かがみの孤城で、誰かが背中を押してくれるありがたみを再確認した

引用:https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/
©2022「かがみの孤城」製作委員会
目次

概要

安西こころは同級生の陰湿ないじめによって、中学1年生になってすぐ不登校になってしまった。
母親はこころをフリースクールへ通わせようとしたり努力していたが、こころの傷は癒えていないこと、それだけにかまけていられないことなどが苛立ちを募らせていた。
何もすることがないこころは5月のある日、自室の姿見が光り輝いているのに気づいた。
鏡に吸い込まれたこころは絶海の孤城に放り込まれ、そこには自分と似たような境遇の子どもたち、そしてオオカミさまと名乗る仮面をつけた少女がいた。

赤ずきんとこころたちを呼ぶオオカミさまは、孤城に隠された願いの鍵を手にした1人だけが願いの部屋に入室を許され、どのような願いも叶うと告げる。
しかしこの城は好きに出入りできるが、午前9時から午後5時の間しか滞在できないルールがあった。
もしこれを1人でも破った場合、その日城にいる者は例外なく狼に食われる。
さらに願いの鍵の捜索も約1年(実際は約10ヶ月)の制限時間が設けられている。
こころたちは鍵を探すのもそこそこに、互いが互いを刺激しないよう近づいたり離れたりしながら交流を深めていく。

あるとき、3学期の始業式の日に遠方にいるメンバーを除いて皆で集まろうと提案があった。
それぞれ理由があって学校に行けない子どもたち。何とか勇気を振り絞って行くが誰もいなかった。
パラレルワールドの住人だから互いに会うことはないと推理したが、オオカミさまは否定する。
そうして時間が過ぎていき、こころたちはある事態に直面し、かがみの孤城の謎が解かれていくのだった。

生きづらい子どもたちのお話

元は小説、後にオーディオブックや漫画、アニメ映画化されたかがみの孤城の登場人物は、子どもが主役である。
大人たちはあまり登場せず、出てきても厄介な(本当に害があったのは1人くらい)キャラクター像になっている。

こころたちはそれぞれ学校生活や家庭環境などで問題があり、息苦しさを抱えて生活していた。
そこに降って湧いてきたかがみの孤城の存在は、居場所のない少年少女の心を捉えて離さない。
ほぼいじめが原因で不登校の子どもが多く、殴られはしないが陰口などささやかれて学校での立場を貶められている。

劇中、3学期の始業式に集まろうと提案した際、リオンを除いた全員が行きたくない(見つかるとまた何か陰口を言われる)プレッシャーに耐えつつ学校へ(校門まで)登校するも誰もいなかった場面がある。
それまでは不思議な出会い、奇妙な日中の過ごし方の緩い非日常をこころたち(と読者)は味わっていた。
しかし、この学校で集まろうという提案のあたりからミステリー要素が強まってくる。
終盤の狼による襲撃が起きるまで緊迫したシーンはないので、空気が冷えていくような感覚があったことを覚えている。

余談だが、筆者は劇場版を見る直前にわざと原作を買って読破した状態で観に行くという奇妙な行動をしている。
ミステリーの要素があることは事前にどこかで見たような気がするので、あえて原作読んで全てを知ってから映像を見る暴挙を選択したことについて、記憶が曖昧なので理由は覚えていない。
おそらく気まぐれが何かでそうしたかったのだろうか。
このとき一緒に買った「すずめの戸締まり」の小説版は映画を見た後で購入したものである。
映画は良かったのに小説の内容は読みづらい上に出来が悪く、時間と金を無駄にしたと当時怒っていた。

謎の隠し方

小説を読んでいた時、オオカミさまの正体は看破できなかった。
映画でも正体の隠し方、ヒントの出し方は小説と違いはないように思われる。
小出しにしつつも客観視してみると、結構納得できる材料は散りばめられていた。
特に映像がでてくる映画版ならなおさら途中でギミックが割れてしまうかと危惧したが、事前に原作を読み切っていないと気付けない(というか無視してしまう)点もあった。
孤城の秘密、願いの鍵を探すゲームの秘密、オオカミさまの秘密は終盤で一気に拾っていったので納得感があったし、スピーディさも感じた。

狼が入場者を喰らい尽くす罰ゲームにおいても、その原因となった子どもの状態が労しいものだったので同情してしまう。
そのときはオオカミさまが流石に哀れに思って助け舟を出してくれたが、孤城の絶対的ルールを破らせるにはいかなかったので仕方ない。
会話や違和感が挟まれているのに、城にいることが不思議ミステリーだから多少の穴はあってもおかしくないと誤判断をしたくなるように作られていた。
制作側がうまいと思ったのでそこに不満はない。

一応子どもたちの中だと、主人公のこころに次いで重要な人物のリオンがある事実に気づいてはいた。
しかし彼は悩んだ結果あえてそこに触れないようそっとしておいたため、真相にたどり着くのが遅れたともいえる。
それもどうしようもないだろう。
そこに切り込んでしまうと物語の根幹、仕掛けられた謎のほとんどがつまびらかになってしまうのだ。

また、作中何度もオオカミさま、赤ずきんと繰り返し呼ばれたのもヒントであり、誘導だった。
視聴者、読者は与えられた情報を元に推理して読み進めていく。
何故ならそれはミステリーだからとか、推理好きとかそのような理由ではなく、人は当然の推論をする生き物だから。
知り得た情報を組み合わせて物事を考えるのはごく当たり前の思考方法であり、特別な人間に許された特権ではない。程度の差こそあれ誰でも出来る。
ミステリーはそうした習性を利用して誘導したり、謎を解いてみせろと伏線や答えをそっと忍ばせる。
かがみの孤城はどちらも利用しており、オオカミさま関連のワードの多くは誘導目的で利用された。

こころたちとて馬鹿まるだしの子どもではない。
だが、鏡に吸い込まれてどこかへ飛ばされるなど非日常な移動方法のうえに、到着場所が謎の巨大な城。
おまけに眼前の仮面をつけた女の子のインパクトに押されて巡らせる思考のルートを外された。
そして人間は何かのきっかけがなければ1度結論を出したもの、何気なく流してしまったものに再注目して思考を巡らせるのはそれなりに難しい。心身に危機が迫っていなければなおさら。
少年少女にとってかがみの孤城の存在はプラスの面が大きく、あえて謎を解き明かさずに限度いっぱいまで利用しようと互いに決めたほどだ。

そうした心理的背景、会話を見聞きすれば神の視点たる観客(読者)は踏み込みづらくなる。
そこがかがみの孤城が評価された要因のひとつだったのだろう。
実際どちらの出来もそれなりに楽しめる良いものだった。変に大きなマイナスがなければ、後は作品を手に取る人数次第である。
ひとつきっぱりいらなかったところは、マサムネの声が高山みなみだからといって本編中にコナンの名台詞を言わせたところ。
映画館でも少しだけざわついたが、あれはパロディだやったーという良いものではなかった。
うぅわつまらねえことするなよ冷めるわ、という失望のどよめきだった。
筆者もがっかりした側である。

強調されたところ、足されたところ

子どもたちのひとり、アキの家庭での問題が映画だとやや強調されたように見えた。
義父絡みの問題が物語の転換の始まりに感じられる。
アキににじり寄ってくる義父。アキは家庭環境にも問題があり、むしろそちらの方が深刻だった。
途中からぐしゃぐしゃに書き殴ったようなノイズめいたものが義父の顔を全て覆ってしまう。
そのシーンの緊迫感、義父から逃げるアキの恐怖に引きつった顔を見て、観客は現実に引き戻されたのだ。

恐ろしい場面だったが、原作にこのようなシーンはなかったような気がする。
アキの行動については原作から外れていないが、小説の主人公はこころであり、このときこころはいなかったので知りようがないのだ。
後々の記憶の回想で見させられたかどうかは、覚えていない。

そうして全てが解けたラスト付近、こころとアキが現実世界で再会を果たす。
孤城のルールでは、願いを叶えた(クリアした)ことで全員の記憶が消えてしまうので誰も覚えていないとあったが、漫画と映画では明らかにアキだけは覚えているような描写になっている。
対してこころは覚えてない。このあたりは追加だったのだろう。
足したからといって話が若干変わるだけで大筋は変わっていない。
せいぜいアキが子どもたちに優しくしていた理由の説明がついただけ。
あれが改変だったとしても、綺麗にまとまっているから良いではないか。
終わりは希望のあるエンディングで締められていたのだから。

さいごに

さすがにベストセラーとなるだけの出来の良さがあった。
しっかり読みたいなら上製本の方が所有欲も満たせてるだろう。
表紙をめくると銀紙が貼ってあって、鏡の演出だとすぐ分かる。中々良いと思った。
文字で読んでみたいが硬いのはという人は、児童文庫のものがあるのでおすすめ。
児童文庫はふりがながあるので漢字が苦手でも問題ない。
さらに挿絵も一般的な小説よりずっと多くて視覚的に楽しめるし、場面の想像の助けにもなる。
10代向けのライトノベルの挿絵より多いのですっきりとした読み味が魅力だ。
さらに絵がメインならより楽しめると考えるなら、漫画版を手に取りたいところ。
本作は売れたためか色々種類が取り揃えてあって都合が良い。各人の好みに合わせたチョイスが出来るのは貴重だ。
筆者は文学を楽しめるならライトノベルでも、それよりもっと手軽にした児童文庫でも選択肢に入れるべきだと考えている。
読書は面接の受け答えのときにだけ使うような薄っぺらく高尚な趣味ではない。
もっと誰もが気軽に、廉価なものでも楽しみながら手に取って読める、そういうものではないだろうか。
ジャンルは自分が読みたいものを選び、読みたいと思ったら読むべきだ。
それが新品でなくてもいいし、むしろ中古のほうが気軽に読んで捨てられるから中古を買えば良い。
魅力ある作品とは、何も映像や漫画にしなくても充分読者を楽しませてくれる素晴らしいものだから。

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