レビュー:亜高速に美しく舞うもうひとつの小公女セーラ、奏光のストレイン

©奏光のストレイン製作委員会

小公女は世界名作劇場にとどまらず、実は映画、テレビドラマ、漫画など様々な形でアレンジされて夜に出ている。
時代だと感じたのは、昨今ひとつのジャンル(?)として確立しきった風潮すらある「なろう系」の
ような作品まで出てきたことだ。
転生したらセーラになっていたみたいな文言や画像があって、多様さを楽しめる度量が試されているのかと身構えずにいられなかった。
さて、色々な形のセーラが出ているが、まさか作者もSF要素満載、巨大ロボットを全面に押し出して派手にドンパチするセーラ(を元に作られた何か)が発表されるなど夢にも思うまい。
厳密に言えば小公女ではなく、一部設定を借りた程度のものだが意外に見てみると面白い一面があったりする。
外宇宙に進出してしまった新しいセーラの活躍を知ってみるのも、ちょっとした多様性に関して見聞を広める目的で良いかもしれない。

目次

概要

どこか未来の話、人類がユニオン(連合)とディーグ(帝国)に分かれて長い間戦争をしていた。
両者の間で起きた戦争は終りが見えず、泥沼のように続いている。
宇宙進出を果たした人類が戦争をする最中、ある兄妹がいた。
兄のラルフは優秀な連合のパイロットであったが、ある時を境に姿をくらましてしまう。
妹のセーラは消えてしまった兄と同じパイロットの道を志して訓練に励む日々を送っていた。
ある日、彼女の基地に謎の機体が襲いかかり、基地は損害を受け、友人たちは皆死んでしまう。
襲ってきた犯人は兄のラルフだと知ってしまったセーラは、何故あの優しかった兄が裏切ったのか理由を知るために、再会を胸に秘めたまま自分の素性を隠して戦い続ける。
そこで偶然見つけた人形のエミリィと、見たことのない真紅のマシンのラムダス。
セーラは降りかかってくる災難を振り払いながら、自身の運命を動かしていった。

ある意味、宇宙版小公女セーラ

ストレインはジャンルをSFロボットアニメとしており、どこをどう見てもイギリスロンドンで生活するようなお話ではない。
登場人物の名前はフランシス・ホジソン・バーネットの小説である『小公女』、『小公子』、『秘密の花園』から取られているので、それらを知っていれば初見でもどこかで聞いたことある名前だなと思うこと間違いなしである。
筆者は小公女、もっといえば世界名作劇場の小公女セーラしか知らないが、エピソードの多くは小公女のような流れなので知らない作品と感じることは少なかった。
むしろ宇宙に飛び出してロボットがビームなりレーザー撃ってくるようなアニメに仕立て上げられている以上、原作要素がどれほどあろうと別物の何かでしかないのだ。割り切った作りになったいたことがかえって有り難かった。
主人公のセーラが兄のラルフのやらかしで国家に被害をもたらしているので、正体を隠し身分を偽って(格下げして)生活するのは小公女のテイストが色濃く見える。
同僚のパイロットからいじめられるのもセーラらしさと言えるだろう。

当然だが戦争が要素にあるため、割と簡単に人が死んでいく。
主人公サイドの連合は人の形を模した有人兵器に搭乗して戦い、敵である帝国側は異形の無人兵器で戦う対比がなされている。
戦争の無人化を推し進めているため、帝国側の兵士があまり出てこない。これは対照的な関係を作るの同時に制作コストカットを目的にしていることは言うまでもない。
そもそも1クールで敵味方が大勢出てこられたところで把握しきれないのだ。
もっと酷いことを言うなら、人死が発生するタイプの戦争を取り扱うアニメでどうせ死ぬから覚える必要がない。
このアニメで戦死するのはパイロットを目指す訓練生と、旗艦の乗組員が大半である。
特に訓練生の戦死率が高いのはリアルだと思った。
何故なら相手はプログラムされたマシンで常に最高効率で動くのに対し、訓練生はまだパイロットとしての腕が未熟なのだ。発進前の渋滞や出てきても即落とされる悲劇が起きても不思議ではない。
連合が使うマシンは旧型のギャンビーと新型のストレイン。訓練課程が異なるので制服がひと目で分かるほど変えられている(と言っても、すぐ分かるのは色合いが茶と青だが)。

根性女


セーラ・ウィーレックは兄を追うためにセーラ・クルスと名前を変え、髪を変えて別の学校に入っている。これでヒイロばりに経歴が書かれたデータを丸ごと偽造していれば凄いのだが、データはそのまま残しっぱなしの詰めの甘さがあった。そのせいで中盤、隠していた情報をすっぱ抜かれてしまってスパイ疑惑をたてられる。追放するべきだ、敵に引き渡すべきだと艦内で噂されるほど彼女の情報が出回っていたがあれは誰が広めたのだろうか。
セーラがストレイン乗りに返り咲く前にも嫌がらせやいじめがよく起きている。特にミミックを失ってから初めてストレインを操縦して戦った際、同じ学科の連中からリンチを受けて死ぬ一歩手前まで追い込まれかけている。そこはもうひとりの主役であるロッティ・ゲラーと仲間たちが助けてくれるものの、心を閉ざして孤立するセーラが何もしないことに思うところがあるようだった。
おそらく、自分に起きている理不尽な諸々の出来事を正直に報告や相談をした結果、自分の来歴を調べられてしまうのではないかというリスクを回避したからだと思う。
データを改ざんできなかった以上、サーバーに残っているデータを誰かにアクセスされたらバレてしまう。
さらに、いじめは自分の兄のやらかしでこうなっているから仕方ないなどの理由が足を鈍らせているのは、それなりに納得できるはずだ。
やられるだけやられるくせに無駄にタフで耐えきり腐らず訓練を続ける様を見て、ロッティから根性女の称号をもらうほど。

亜光速戦闘

ストレインに乗るには完熟訓練をする以前に、もう一人の自分(ミミック)を用意しなくてはいけない。
このミミックが結構な代物で、中身は受精卵の時に同一胚から分割・培養された双子の脳が収められているのだ。要は生体デバイスであり、脳があるので自意識もあるはず。
とある重要なミミックが分解されたとき、脳と目玉が機械に繋がれていて、加えて青い液体に浸されていた。
目玉はぐるっと上へ動いたことから、意識があって目を動かし物を見ていた事実がはっきりと示される結果となった。SFの設定にありがちだが、まあまあ人の業が深くて正視にたえない。
おまけにこの解剖時、人の内蔵じゃない旨が発言されるが誰も内蔵がそのまま入っているはずなのに動揺する気配すらなかったのは正直引いた。
彼らは全員軍人だから当たり前と言われたとしても、顔色ひとつ変えないで話が進行していくのは恐ろしい。
それなら実際には人間の脳や何かが詰め込まれたボックスを抱えて戦場へ飛び出すセーラたちは一体どういう心境でこれをを持っているか聞きたくなる。

ストレインのパイロット(リーズナーという名称)であり続けるにはミミックを失ってはならず、第1話で友人含めてミミックも破壊されたセーラが哀れでならない。
ミミックがないからストレインに乗れず、単独操縦ができるギャンビー乗りとしてこっそり訓練性を続けるセーラは、ゴミ捨て場に放置されていた人形のエミリィとリンクすることでストレインを操れるようになるが、あれはイレギュラーケース。エミリィはセーラの遺伝子をつかって培養したものではないので、本来ならミミックの代用品として使えないからだ。

さて、もうひとつ面白いと思った設定は亜光速空間での戦闘について。
通常の空間と異なり速度が大きく増している関係で、進行方向へ射撃してはいけないと注意されることがあった。撃ったビーム(マーキュリオンなるアニメ独自の物質)に自分から突っ込むのは危ないので、側面や背面方向から撃つことを教えられるのだ。
もしくは格闘戦ができる至近距離まで詰め寄って戦うか。アニメの戦闘描写が派手になりやすいことから、もっぱら近距離での戦闘が多かった気がする。無人兵器相手は射撃やすり抜けつつ切り捨てていく流れ作業、ラルフが乗るストレイン・グロワールにはブレードやアンカーの格闘が多い。
ストレインは旧式のギャンビーと最も違うところは、単騎で亜光速巡航が可能な点である。
これで敵部隊へ超速戦闘を仕掛けにいけるのが強力である……といいたいが、残念ながらあまり有効そうには見えなかった。

時間のずれ


SF系なら時々見る空間跳躍(ワープ)でほぼ時間をかけず、目的の場所へ行き来できるような便利性能ではないのだ。
筆者が勉強不足なので正しく説明できないが、亜光速へ突入すると特殊相対性理論によって時間がどんどんズレていくからだ。
このせいで亜光速内に滞在するほど外の時間と自分たちの主観の時間が凄まじい速度で離れていく。
何度も繰り返すと年単位で離れるのは容易に起きてしまう。ロッティの仲間のひとりのカリスフォドの弟と作中出会うエピソード、見てくれはおっさんの姿である方がカリスフォドの弟と説明されるのだ。
最終回でもセーラが兄ラルフとの最終決戦で周りに被害を与えないために、二度と会えないかもしれない覚悟をもって亜光速へ突入した。この決戦後、どこかの惑星で不時着した後のコックピットのインターフェイスには125年もの歳月が経過していた。
軍人のロッティたちは別の任務で亜光速巡航するため成長した姿で再会できたものの、当たり前だがそれ以外の人物たちは間違いなく死んでいるだろう。
最後にセーラが「私はひとりじゃない」と締めくくれたのは、同じように生きるであろうロッティなら時間の果てで待っていてくれると確信していたから。

亜光速で動けば動くほどずれてしまうのだから、搭乗員たちの移動時間を削減できるメリット以上に、いればいるだけ外とずれてしまえば共同して作戦行動をするのは困難を極めるデメリットが大きすぎる。
だから普段の航行は通常速度で行っている理由がここにある。演出の都合で特別感を出したいから渋っているのも内包しているが。
もし亜光速内での時間のずれを自分たちの主観時間に合わせて通常空間へ脱出できるのなら話が違ってくる。SFならむしろこちらの方が主流な気がする。
こちらなら超速移動がメリットの塊になって、それを可能にする装置が重宝される圧倒的な理由付けにつながるからだ。
超速で移動する自分の時間に合わせて脱出したケースは、ぱっと思い出せるのだとラルフが発狂したときだ。

人類が亜光速移動を可能にしたのは、人類の資源衛星に謎の異星人が墜落してそれらを解剖および実験を繰り返したからだった。
より情報を集めるために異星人の移送を試みた人類へ、同胞を奪還するべく異星人が急襲した。
普通なら援軍は間に合わないが、亜光速空間での戦いになったおかげで技術だけを転送できれば時間のズレを利用して間に合うかもしれないと軍部は考える。
実際そのとおりに事が運び、異星人から齎された技術をもって作られたストレインに乗ってラルフが亜光速空間に突入して異星人を全滅させる。
襲撃者を全滅させた瞬間に、自分が攻撃したのは無人兵器ではなく有人兵器だったこと、異星人から流し込まれた情報から何を人類からされてきたか知ってしまったラルフは発狂する。
本来ならこの空間から脱出したところで外との時間が相当ずれているはずだったが、異星人の能力によって脱出するときの時間が外の時間ではなく、ラルフの主観の時間に調整されて脱出できてしまった。
そのせいで発狂したラルフが持っていた時間の流れで物語が進行していくという構成だったのだ。

説明がいつも以上に正確性を欠いてしまっていることが口惜しい。
しかしこの話が出てきたときに、面白い設定だと称賛したものだ。
本来ならまだいないはずの人間を出すための設定、何故出てきたかの理由が出されたことで一気に理解が進み、それらが納得感を十分感じられるものだった。
残念ながらそのトリックはラルフのケースだけだった気がする。
言ってしまえば、この脱出するときはどの時間を使うかの設定を普遍的なものとして物語に広めてしまっていれば、あの納得は得られなかっただろう。
艦長達の推理や驚きが滑稽になってしまうので、あそこで衝撃の事実を出すには限られた設定に留めるしかできなかったのだ。

セーラとロッティ

ストレインの主人公はセーラだ。一方、漫画版の主人公はレギュラーメンバーのひとり、ロッティである。
全一巻しかないうえに内容はロッティの過去編だろうか、筆者は読んでいないので分からない。
ストレインはロッティの声優の熱演を楽しむものだと思えるくらいに、彼女はメインを張っている。
ストレインの部隊のリーダーを務めているし、努力を怠らず人望もあるロッティは女王様と呼ばれるくらいだ。
小公女セーラを知っている人なら、あの泣いてばかりのロッティが凄まじい有能になっていると思うだろうし、ラヴィニアがいいように扱われているのも笑えるはずだ。
ラヴィニアのやらかしが物語を動かしたのはストレインでも同じ。ただしラヴィニアがいじめてくることは一切ない。
そしてラヴィニアがやらかしたことをまともに謝罪していたのも同じ。さすがに狙っている。
今作、セーラとロッティの設定はわざと寄せている。
兄しか家族がいない、どっちの兄も軍属になって追いかけるため自分も軍人になる、兄がろくな目に合わないなど。
ロッティがセーラの正体を知って、銃口を向けながら詰問する場面。
そこでどんどん言葉がつまるような、苦しさと悲しさが込み上げる圧倒的な演技を見せてくれた声優の力が凄まじかった。これはロッティの声優であるゆかなの熱演を楽しむ作品かと思うほど。
セーラが激情を内に秘めやすく、ロッティは割と外へ発露してくれるからこそだろう。

さいごに

小公女など複数の作品から名前の設定を借りているとはいえ、流石にSFものを派生作品といいがたい人はいるだろう。
他作品において宇宙での戦い、時間の認識の違いを持ち上げて進めておらず、当たり前だがセーラたちが軍の一員として命がけの戦いに身を投じることはない。
それでも僅かに香る小公女セーラの残滓を嗅ぎ取りつつ、ロボットオリジナルアニメを楽しみたい人にとって、お試しで視聴してみても良いかもしれない。



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